昔々。あるところに金色の髪に赤いずきんのとても良く似合う…… 赤ずきん むかしむかし。あるところに金色の髪に赤いずきんのとても良く似合うとても可愛らしい男の子が居ました。 名前を、ミュカといいます。 良い子のミュカは、ギルディアスおばあさんのお見舞いに、毎日毎日シャトーのワインとチョコレートケーキを運んでいました。 病人に送るにはどれもこれもちょっと微妙な見舞い品ですが、そういう細かいことは言いっこなしです。 そして今日もミュカは、お見舞いのワインとケーキを携えて、元気にギルディアスおばあさんの家に出発しました。 すると、森の奥から。 「ミューカ!遊ぼうぜ!」 と元気な声がします。 赤ずきんミュカが振り返ると、そこには大きな耳と大きなお目々、ふさふさ尻尾の仔オオカミが立っていました。 「ガイズ!」 ミュカは怯えることも無く、満面の笑みで手を振って、仔オオカミを迎えます。 ガイズと呼ばれたこのオオカミとミュカは、もうずっと前からの親友でした。 「また今日も、あのメガネババァの所に行くのか?」 「うん」 事も無げに頷いたミュカに、ガイズは拗ねたように唇を尖らせます。 だってあのメガネは、自分が大好きなミュカと遊ぶのをいつもいつも邪魔するのです。 「それよりさ、ちょっと寄り道してあっちの花畑で遊ぼうよ、ミュカ!」 「うーん…でも、寄り道はするなってギルディアスおばあさんが言うし…」 困ったように呟きながら、でもミュカの心は半分以上『ガイズと一緒に遊ぶ』の方向に傾いていました。 だって、ギルディアスおばあさんの光るメガネやら、ずれても居ないのにやたらと上げ下げされるメガネやら、兎に角メガネを眺めて時間を過ごすよりも、このガイズと一緒に遊んだほうがもっとずっと楽しいに決まっているのです。 それに断ったら、この可愛い仔オオカミはきっと悲しい顔をするに違いありません。 「…じゃあ、いいよ。でも、ちょっとだけね」 「ホントか!?」 ミュカがそう言ったので、ガイズは嬉しくて嬉しくてミュカの手をぎゅうっと握りました。ふさふさ尻尾も、ぴこぴこ揺れました。 優しいミュカは、こんな風にいつでもガイズの我侭を聞いてくれるのです。 そして花畑で二人、日が暮れるまで遊びながら、ガイズは『ミュカみたいに優しくて可愛い子がお嫁さんになってくれればいいのに』と思っていました。 「ミュカ…」 「なに?ガイズ」 「…………何でもない」 『お嫁さんになって』何て言ったら、ミュカはどんな顔をするでしょう。きっと、びっくりしてしまうのではないでしょうか。 そう思って、先の言葉をガイズは飲み込みました。 見かけによらず男気溢れるミュカ少年が、『可愛いなぁ。…いつかこんな可愛いオオカミをペットに飼いたいなぁv』などと傍らで物騒なことを考えているとは、まるで気づかずに。 兎に角そんな風にして、ミュカは毎日毎日おつかいの途中でガイズと道草をしていたのでした。 さて、そこで収まりがつかないのは、見舞われ側のギルディアスおばあさんです。 あのオオカミとミュカが仲良くなってからというもの、ミュカと過ごせる時間はますます減ってきました。 攫って閉じ込めたいくらい大好きなミュカ。なのにそんなミュカと過ごせる貴重な時間を、野良オオカミ風情に奪われるとは…! にこやかにガイズに手を振るミュカと、それを見送るガイズ。 それを窓からメガネを光らせつつ見つめるギルディアスの手元で、カーテンが引きちぎられました。 「あの野良オオカミめが…!人のものに手を出したらどうなるか…思い知らせてやる…」 手の中ではビリリ、と音を立ててカーテンが裂け。 顔の上ではパリン、と音を立ててメガネが割れました。 そして、次の日。 「ミュカ…来ないなぁ…」 森の小道で。切り株に腰掛けて足をぶらぶらさせていたガイズは、ため息をつきました。 今日に限っていつもの時間になっても、あの可愛い赤いずきんがちっとも見えないのです。 「病気かな…それとも、もしかして怪我とか?」 心配で心配でいても経っても居られなくなったガイズは、とうとうぴょん、と切り株から飛び降りるとミュカの家に向かって駆けていきました。 そして暫く道を戻った、その時です。 「あ、居た!」 前方の道に、蹲った赤いずきんが見えました。 カゴを地面に置いて、丁度靴紐か何かを直している最中のようです。 ミュカが無事だったことにほっとすると、今度はガイズの中にムクムクと悪戯心が沸いて来ました。 (…そうだ。後ろから近づいて、びっくりさせてやろう) 思いついたガイズは、茂みからそっと赤いずきんの後ろに回りこみます。 そして、1,2の3で、その背中にがばっと抱きつきました。 「何遅れてんだよ、淋しかっただろ…?」 言葉にすると、自分で思っていた以上に心細かったのでしょうか…ガイズの目に、ほんのちょっぴり涙が滲みました。 赤いずきんと、そこから零れた金色の髪との相変わらず綺麗なコントラストが嬉しくて、相手の首筋に頬をすり寄せます。 その時。 「…………」 あれ?とガイズは首を傾げました。 赤いずきん、金色の髪、白い肌……はいつもと同じなのですが。 ミュカは、こんなに広い肩をしていたでしょうか。 こんなに首筋がしっかりしていたでしょうか。 そして…何故、苦い煙草の匂いがするのでしょう。 「…………」 嫌な予感が背筋を這い登り。ガイズはそーっと赤いずきんの持ち主から離れました。 ミュカではない赤ずきんが、ゆっくりと立ち上がり、振り返ります。 さらりと落ちる金色の髪。淡い色の瞳。神経質そうな細い眉。酷薄に歪められた唇。 「…俺に、何だって?」 両腕を組み、にやりと笑う長身の男からガイズは脱兎の如き勢いで逃げ出しました。 「すいません!盛大に間違えました!!」 「あー、おい。待て待て」 「…!ぐっ!」 しかしすいっと伸ばされた長い腕に尻尾を容赦なく捕まれ、仔オオカミは謎の赤ずきんの眼前に引き戻されました。 赤ずきんは舌なめずりをしながら、捕らえた仔オオカミを眺め回します。 そしてごく小さな声で一言、『気に入った…』と呟きました。 一体何をどう気に入ったというのでしょう。気になりますが、怖くてとても確認できません。 「あ、あんた誰だよ!」 恐怖に震えながら、それでも気丈に相手を睨みつつ、ガイズは叫びました。 「俺か…?俺の名はデューラだ。デューラ様と呼びな」 …一瞬『女王様とお呼び!』という台詞がガイズの脳裏にフラッシュバックしました。 言われてみればこの男、赤ずきんの癖してとっても鞭が似合いそうです。 気が遠くなりそうな恐怖を味わいつつ、ガイズは必死に親友の行方を問いただしました。 「ミュカは…!?いつもその赤いずきんを被っている奴だ!お前、ミュカをどうしたんだよ!」 「ミュカ…?ああ、あいつはこねぇよ。今日は俺様があのメガネババァの所に行く番だ」 軽く眉を上げ、『デューラ』と呼ばれた赤ずきんは、事も無げに答えます。 …ということは、この男もミュカと同じく、ギルディアスおばあさんの孫だというのでしょうか。ああ遺伝子って何て不思議。 「…それより」 先程からガイズの全身を眺め回していたデューラはペロ、と唇を舐めました。 「お前、『ガイズ』だろう?…話には聞いているぞ。いつもミュカと一緒に遊んでいるそうだな…」 「そ…そう、だけど…?」 相手の嫌な目つきに居心地悪げに身を捩じらせながら、ガイズは答えます。 その震える大きな耳に唇を寄せ、デューラは囁きました。 「なら俺も同じギルディアスの孫で、おまけに赤いずきんだ。…なら俺とも一緒に遊んでくれるだろう?なぁ、ガイズ…?」 言いざま、手首を軋むほど強く捕まれます。 「あ…遊ぶ…って」 ミュカと一緒に遊ぶときのように、花畑で冠を作り…などという可愛らしい遊びでないことは火を見るより明らかです。 事実見下ろしてくるデューラの目は、オオカミなど足元にも及ばないくらいギラギラと輝いています。 喰 わ れ る … ! 肉食獣である自分が、まさか捕食される危機に直面するとは…! じりじりと迫ってくる長身の赤ずきんから、ガイズは身を翻して逃げ出しました。 そして振り返ることなく、どこまでも何処までも走って行きました。 「…は……はぁ……」 どのくらい必死で走ったでしょうか。ゼイゼイと息をつき漸くガイズは足を止めました。 「何だよ…あいつ……」 あんな恐ろしい赤ずきんがこの世の中に存在するなんて、ガイズは全く聞いていません。 今までこの辺りに居る赤ずきんは、可愛いミュカだけだったのに…とため息をついたガイズは、はっとあることに気づきました。 (あの、メガネだ……!) 常々自分とミュカの仲の良さを妬んでいたギルディアスおばあさん。 だから今回のように刺客(…)を送り込んで、ガイズを痛い目に遭わせようと企んだに違いありません。 「ちっくしょう…卑怯な真似しやがって…!」 ぷぅっと膨れたガイズは、悔しくて地面をドンドンと何度も叩きました。 「あのメガネめ…!絶対仕返ししてやる!お返しにあのメガネ、叩き割ってやるーっ!」 ぷんすか怒った仔オオカミは、一路ギルディアスおばあさんの家まで駆けていきました。 「こーんにーちーは…って、誰も、居ない…?」 たどり着いたギルディアスの家は、ひっそりと静まり返っていました。 ならば好都合、とガイズは大胆にも家の中に入り込みます。幸い、勝手口のドアの鍵は開きっぱなしでした。 「メガネメガネ…どーこーかーなー…?」 ターゲットをメガネ一本に絞ったガイズは、家中ありとあらゆるところを家捜ししてメガネを探しますが、まるで見つかりません。 「無いか…あれだけ光ってたら、探しやすいと思ったんだけどなぁ…」 ガサガサと引き出しを夢中で漁っていたガイズの耳が、その時外の物音を聞きつけてぴくりと立ちました。 (メガネババァ…帰ってきたのか!?) 慌てて窓から外をこっそり伺い、ガイズは卒倒しそうになりました。 ドアの鍵を開けているのは、あのデューラと言う赤ずきんです。 (ど…どうしよう…) 焦ったガイズは窓を開けて逃げようとしますが、慌てている上に肉球でぷにぷにの手では、中々鍵が開けられません。 そうこうしているうちに、ドアの外まで足音は近づいてきます。 ガイズは、最後の手段…!と普段ギルディアスおばあさんが寝ているベッドに潜り込むと布団を頭から被りました。 「…おい、ギルディアス。見舞いに来てやったぞ」 ガチャリとドアを開けたデューラは、膨らんだベッドを見て。そしてベッドの端から垂れ下がったふさふさの尻尾を見て唇を吊り上げました。 (ほう……成る程) ガシャン、と見舞い品の入ったカゴを放り投げ、デューラはベッドに近づきます。 そしてベッドの上で微かに震えている人物に、声をかけました。 「おい、ギルディアス。どうした?」 「…な、何でもない。具合が優れなくてな…」 デューラの問いかけに、律儀に返事が返ってきます。いつもより随分と高い声です。 「どうした。随分声が高いんじゃないか?」 意地悪く尋ねるとデューラは、ぐいっと布団を引っ張りました。 中のガイズは慌てて布団を押さえますが、時すでに遅く。大きなオオカミの耳がデューラの目の前に晒されてしまいました。 それを見て、さも驚いたというようにデューラは声を上げます。 「おやおや!一体どうしたんだ!お前の耳は昔からそんなに大きかったか…?」 「そ…それは…お前の声がよく聞こえるように…」 苦しい言い訳をつづる、ガイズの顔は布団の下で真っ赤になっています。 「…そうかそうか。なら良く聞こえるようにここで喋ってやろう…」 そう言ってデューラはガイズの大きな耳をカリ、と甘噛みしました。 「…や…っ!」 ガイズの喉から小さな悲鳴が漏れます。その拍子にまた布団が少しずれ、大きな双の瞳が露になってしまいました。 また驚いた、というようにデューラは声を上げます。 「これは一体どうしたことだ!お前の目は以前からそんなに大きかったか…?」 「そ…それは…お前の姿がよく見えるように…」 震える声で答える、ガイズの背中は冷や汗でびっしょりです。 「ほう…そうか。なら、よく見えるようにもう少し近づいてやろうじゃないか…」 そう言ってデューラはベッドの上にのしかかりました。 二人分の体重を受けたスプリングが、ギシ、と音を立てて軋みます。 そしてとうとう、ガイズの顔を隠していた布団が引き剥がされました。 恐怖にきゅっと引き結ばれた唇を人差し指でなぞり、デューラは囁きます。 「お前の唇は…前からこんなに、可愛らしかったか…?」 「そ…それは……」 カタカタと震えるガイズの唇を舌で辿りながら、代わりにデューラが答えました。 「俺の口吻けを受けるため、だろう?」 塞がれた唇からは、もう悲鳴すら漏れませんでした。 ************** その頃外では。 「あー…すまない。使用する弾は、くれぐれも麻酔弾で。あの人一応アレでも人間だから…殺さないように。…気持ちは分かるが」 灰髪の穏やかそうな雰囲気を持った猟師が、殺気立った背後のメンバーに忠告します。 その時、銀髪の麗しい猟師が手を上げました。 「どうかしたか…?」 灰髪猟師の問いかけに、銀髪猟師はニコリと笑ってこう言いました。 「半殺しはOKですか?」 …これはもう自分には止められないな。 灰髪猟師は遠い目でそう思いました。 ************* ************** そしてその頃の赤ずきん ミュカの自宅では。 「ギルディアス…外出て平気なの?」 「ああ。お前の顔を見られたら、病気なんて吹っ飛んでしまったよ」 あのギルディアスおばあさんが、ミュカと一緒に優雅なティータイムの真っ最中でした。 よく考えたら、ミュカと一緒に居たいなら家で待っていないで、こんな風に自分で会いに行ったほうがよっぽど確実なのです。…どうせ仮病だったんだし。 「そうか。でも本当に元気そうで良かった。それに何か今日は楽しそう」 ミュカの言葉に、今頃酷い目に遭っているであろうあの仔オオカミの事を思ってギルディアスはニヤリと笑いました。 「…私の最終兵器が、今頃大活躍の真っ最中だろうからな…」 ふふふ、と不穏な笑みを浮かべて、ギルディアスはティーカップを傾けます。 きらりと光るメガネに、ミュカは眉を顰めました。 (嫌な予感…ガイズ、大丈夫かなぁ…) 不吉な予感に、ミュカは窓の外のうっそうとした森に目を向けます。 …その時、数発の銃声が森の中に響き渡りました。 END |
赤ずきん。なら普通ガイズが赤ずきんで主任がオオカミなんだろうけど、あえて逆。 こんなステキ設定を下さった某様に このお話は一方的に捧げますv |
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