初恋のひとを おぼえていますか? はつ恋 「初恋の相手?」 何を突然、と呆れたようにデューラは返す。 クスクスと笑って涙の滲んだ目元を拭いながら、シルヴェスはええ、と笑った。 「今、ジャーヴィーとその話をしていまして…」 「シルヴェス!何勝手に喋ってんだ!」 真っ赤になったシャーヴィーが、バン、と机を叩く。 「それで、主任…ジャーヴィーの『初恋』の相手が誰だったか…」 「シルヴェスー!!」 殆ど泣きそうな面持ちでジャーヴィーは相棒の肩を揺するが、珍しくその話題にウケてしまったらしいシルヴェスが聞き入れる気配はない。 (馬鹿どもが…) 「…『母親』だろ」 さしたる興味もなさげに告げられたデューラの答えに、ジャーヴィーは一層顔を紅潮させる。 「な…何で分かっちゃったんですか、主任〜!!読心術ですか!?ねぇ!?」 「何でも何も」 「ああぁ〜!もう、絶対に他の奴らには言わないで下さいね!シルヴェス!お前もだからな!」 苦笑いしつつも、これ以上相棒を苛めるのは可哀相だと思ったのか、シルヴェスはハイハイ、と頷く。だが一方デューラの反応はごく冷たいものだった。 「そんなもんわざわざ言わなくても、この刑務所の中の人間だったら大半が予想できる答えだろ」 「う…嘘ですよね!?」 酷薄な上司の台詞に一転、顔を蒼褪めさせてパッとジャーヴィーはシルヴェスを振り返るが、頼りの相棒も笑いをかみ殺してそっぽを向くだけだ。 この、赤毛看守の書いた『母ちゃんへの手紙』が、ある囚人の手を経て刑務所内全体で回覧されているという事を――実は、本人だけが知らないのだった。 「畜生…俺ばっか俺ばっか、笑いものにしやがって…!」 散々おもちゃにされたジャーヴィーの憤りは、今度はシルヴェスに向かう。 「じゃあシルヴェス!お前はどうなんだよ!お前の初恋の相手!」 「私のはさっき少し言っただろう。隣の家に住んでいた、2つ年上の女性だと」 「つっまんねぇ…滅茶苦茶ありがちだな」 「…そんな事で意外性を求められても…」 (尤も、私の『今』の思い人が誰かを言ったら、お前きっとあまりの意外性に卒倒するだろうしなぁ…) 心の中だけで呟いて、シルヴェスは目の前の『中々鈍い思い人』に溜息をつく。 思うとおりの結果が得られなくて、苛立ったジャーヴィーの矛先は今度は無謀にも己の上司殿に向かった。 「じゃあ、主任は!?主任の初恋の子って、どんな子でしたか!?」 「馬鹿!ジャーヴィー!!」 ほやほやと平和な面持ちで暴れる『思い人』を眺めていたシルヴェスだったが、その口走った内容に慌てて後ろからジャーヴィーの口を押さえ込む。 「ぐ!ひるべしゅ…!なにす…!」 「バカバカバカ!何てこと聞くんだお前は…!」 ぎゅーっとジャーヴィーの口を押さえたまま、シルヴェスは小声で囁く。 「相手は『あの』主任だぞ!?聞くも恐ろしいとんでもない思い出話が飛び出したらどうする…!生まれて初めて『可愛いなー』と思った子を、殴ったり蹴ったり、床の煉瓦に顔をゴリゴリ擦りつけたり、針刺したりあらぬ場所に警棒突っ込んだり、あまつさえ『チョコレートケーキー♪』とか『レモネードー♪』とかしてたら…!」」 「…してねぇぞ、そんな事は…」 好き勝手言われ、流石のデューラも口を挟んでじろりと部下二人を睨んだ。 「……あ、はい……」 「……失礼…しました……そりゃそうデスヨネ……」 「当たり前だ。…大体、ロクに口もきいちゃいねぇよ」 言い捨てて、ふいっとデューラはそっぽを向く。 「…ああ、それじゃあ、結局片思いに終わったんですね…って、痛て!」 ぽろっと口走った『失言大王』の足を、慌ててシルヴェスが蹴りつける。 「お前は…!お前はどーしてそういらん事をポロポロと…!」 恐る恐るシルヴェスは上司を振り返る。だが、意外にもデューラはジャーヴィーの失言をそれほど気に掛けていないようだった。 遠い過去の思い出を手繰り寄せるように、頬杖をついてぼんやりと中空を眺めている。 「…あれは『初恋』なんて大したものでもないがな。まだ小さい――そう、4、5歳くらいの女の子だったから…」 「…………!」 「…………!」 ぼうっと思い出に浸りながら上司が漏らした言葉は、部下二人をもれなく凍りつかせた。 「4、5歳って…4、5歳って主任…!」 「いっやーっ!主任の幼女趣味ー!犯罪者ーっ!!」 「…ちょっと待て。その頃はまだ俺も14だったんだぞ?」 焦ってデューラはフォローを入れるが、部下二人は『へー。それでも10歳は離れてたんですよねー。ふーん』という冷たい視線を向ける。 「まさかとは思いますけど…主任、その子にヘンなことしなかったでしょうね…」 「さっきも言っただろ。いつも窓越しに見るばっかで、ロクに口きいたことも無かったって」 心外、と言わんばかりにデューラは返す。 意外に純愛で終わったらしい『主任の初恋』に、ジャーヴィーは興味津々で身を乗り出した。 「窓越し…ですか。一体、どんなお嬢さんだったんですか?」 まさに深窓の令嬢の姿が、二人の脳裏にふわふわ浮かぶ。 窓際に佇む、アンティークドールのような幼い少女。それを日々通いつめてはただただ見詰める金髪の少年。 薄いガラス越し、殆ど言葉を交わすことも叶わない。それでも結ばれる視線だけが、幼い恋心を雄弁に語っていた――なんて、中々どうして美しい図じゃありませんか? が、美しい想像をデューラはひらひらと手を振って一蹴した。 「あー。アレは『お嬢さん』なんてもんじゃなかったぞ。家で一時期雇っていた洗濯屋の女が連れていた娘でな。肩くらいまで伸びた黒髪を揺らして、犬の子かなんかみたいにウチの庭中を駆け回ってた」 「い…犬の子…?」 想像していた深窓のご令嬢とは、エライ落差だ。 それでも、その少女の思い出を語るデューラの目は、いつになく優しい。 「最初見たときは驚いたな…それまで俺が知っている女なんて、子供でも皆、外を出るときは日傘を欠かさない、大口を開けて笑わない、走り回るなんて以ての外…だったから」 余りに新鮮で、いつしか窓の外から目を離せなくなったのだと言う。 「…だがある日、いつもの時間になってもそいつが現れない日があった」 その日は、元々大して聞いていない授業も殆ど身に入らなくて。 気になって気になってデューラは、庭に足を踏み入れた。 「そうしたら、庭の隅にそいつは居た。膝抱えて蹲ってな。どっかで転んだみてぇだったんだ」 「ああ…だから、部屋からは見つけられなかったんですね」 デューラは頷く。 「しっかしそのガキがな…泣かねぇんだよ。結構深い傷だろうに」 今でも思い出す。血の溢れた膝小僧を掴む、震えた指。寄せられた眉と、色を失うくらい噛み締められた唇。対照的に零れ落ちそうなほど涙を湛えた大きな瞳。 「『泣かないのか』。そう言ったら『泣けない』と言った。――涙、堪えながらな。『泣いたら迷惑がかかる』って――そんな事を、たどたどしく言ってた」 もしかしたら母親に、きつく言われていたのかも知れない。 仕事先のお屋敷では泣くなと、先方に迷惑をかけるなと。 その洗濯屋が仕事場に子供を連れてこざるを得なかった理由までは分からない。 ともあれ、その子供は確かに『泣かない』という約束を忠実に守ろうとしていた。 こんなに、幼いというのに。 「それを見てると、どうにもこっちがイラついてきてな――」 「…ええ」 「それで、手当てをしてやる振りをして」 「…?『振り』を…して?」 「思いっきり傷口、ザリザリっと擦ってやった」 ひくっとシルヴェスの頬が引き攣る。 「なぁにやってんですか、アンタわぁぁ――っ!」 「イヤほら、『痛いだろう?なら、素直に痛いと言え』って」 「あの、他にもっとマトモな手段考えつかなかったんですか…?主任…」 そりゃ、初恋も実らないだろう。…実るわけが無い。 「それでもな…そのガキ、えっらい強情で…どれだけ乱暴に傷を扱おうが、絶対泣かねぇんだ」 あの手この手でと『素直に』泣かせようとして――とうとうデューラは根負けした。 「…それで最後に、『何で我慢なんかするんだ。…ガキは泣きたいときに好きなだけ、泣けばいいだろう』――って言って頭を撫でてやったら、やっと泣いたなぁ…俺にしがみついて、『ホントは痛かった』って」 可愛かった、とぽつりとデューラは呟く。 その直後、少女は探しに来た母親に手を引かれて去って行った。 恐縮したように時折振り返っては『屋敷の坊ちゃま』に幾度も幾度も頭を下げる母親の横で、少女は手当てに使ったデューラのハンカチをぎゅっと握り締めていた。 「…という経緯があって俺は、『他人を泣かせるのに至福を覚える』性質となりましたとさ」 (嫌なオチついた――っ!) (まともに『美しき思い出』で終わるわけないと思っていたが…主任…!) 「途中までは『良く考えるとちょっとおかしいんだけど、割と純愛?』だって信じてたのに〜!そうですよね!所詮は主任ですもんねー!!」 もう主任なんか信じるもんかーっ!と半ベソでジャーヴィーは走り去る。 慌ててそれを追いかけようとしてシルヴェスは、ふと振り返った。 「そう言えば主任…その子とはその後、どうなったんですか?」 「結局、あの日以来二度と会う事は無かった。洗濯屋と俺の家との契約は、その日までで終わりだったんだ」 本を読むように感情を交えない口調で、淡々とデューラは答える。 「……また逢いたいとは、思わないんですか……?」 シルヴェスの問いかけに、デューラは苦笑いした。 白手袋に包まれた己の両手を、じっと眺める。 「今更…遭えたところで、何かが変わるわけでも無いだろう…」 眇められたその目は、何故か酷く淋しげで。 見てはならないものを見てしまったような思いに、シルヴェスは一度敬礼をすると部屋を後にした。 「ああぁ〜もう、聞くんじゃなかったぜ!畜生〜」 ぶつぶつ言いながら廊下を闊歩する相棒に、シルヴェスは小走りで追いついた。 「あ、シルヴェス」 「…そんなに文句を言って歩くもんじゃないだろう、ジャーヴィー。最初に話題を主任に振ったのはお前じゃないか」 「う〜」 軽く窘められて、ジャーヴィーは拗ねたようにそっぽを向く。 「でも、なーにーが、『ヘンなことはしていない』だよ!とか思わなかったか?おまけに、そんなガキの頃には主任、既に『人をいぢめる快楽』に目覚めちまってた何て…!」 あーやだやだ、怖い怖い、とジャーヴィーは身震いする。 (本当に…そうなんだろうか) シルヴェスはふっと足元を見詰めた。 さっきの最後の台詞は――どうも、主任なりの照れ隠しのようにも思えた。 あの淋しげな表情を、見た後では。 「なぁ、ジャーヴィー…」 シルヴェスが口を開きかけたとき、目の前の相棒がふと不自然に足を止める。 「…どうした?」 「いや…あっちで囚人共が賭け事をしてるんだが…」 困惑したようにジャーヴィーは首を捻った。 「変わった面子だなぁ…と思って…」 「だぁぁ!お前ら、今の絶対イカサマしだろ!」 怒鳴りながらガイズは、カードを床に放り投げる。 「おーいおい、物に当たっちゃダメだろ〜」 苦笑いしながら、エバは床に散乱したカードを拾い集めた。 「イカサマなんて…私たちはしていませんよ、ガイズ」 「そーそー、大体自分が弱っちいのを人の所為にするのは良くねぇんじゃねぇのか?」 口々に返す、ヴァルイーダとジョゼ。 カッとなって言い返そうとするガイズを、傍らのシオンがまあまあ、と宥める。 「それで?お前もう賭けるもん無くなったんだよな?どうするよ?」 さくさくとカードをシャッフルしながらエバが問い掛ける。 「何だったらよ、お前のカラダで…」 言いかけたジョゼの言葉は、華々しい異音にかき消された。 「…痛ってぇ…っ!何すんだよ、お前ら!」 「『何すんだよ』、だって!?」 「ソレくらいの事、分からない訳じゃないですよね?」 普段穏やかなシオンとヴァルイーダに交互に責められ、流石のジョゼも蒼褪める。 「そ、それじゃあさぁ、ガイズの恥ずかしい話なんてどうよ!」 「『恥ずかしい話』か…」 全員の脳裏に、ふと『誰かさんとガイズ』の構図が浮かぶ。 「…やっぱ、それナシ」 「うん…聞いてるこっちが不愉快になりそうだよな…」 うんうん、と4人は同時に頷き合う。 「あ、じゃあ、お約束の『恋の話』なんてどうだ?」 エバが提案する。が、ガイズの反応は思わしくなかった。 「えぇ〜、ヤだよ、そんなの…」 「ばーか。嫌なことをさせられるのが、『罰ゲーム』だろ?」 「だけど…」 渋るガイズに、ヴァルイーダは微笑みかけた。 「ガイズの初恋の女性は…『ハンカチの彼女』ですよね?」 「うわっ!馬鹿!ヴァルイーダ!!」 慌ててガイズはヴァルイーダの口を押さえる。…が、ほんの少し遅かったようだ。 案の定、ニヤニヤと笑うエバとジョゼに迫られる。 「なーんだ、もうヴァルイーダには喋ってんじゃないか」 「一回言ったなら、二回も三回も一緒だろ!?おら、吐け!」 「ぎゃーっ!」 「ガ、ガイズ!」 二人に襲われたガイズを助けようと、思わずシオンは手を伸ばす。だが、その手は眩しいばかりの笑顔を浮かべるヴァルイーダに捕らわれた。 「あ…あの…」 「君も…聞きたくありませんか?」 「え?」 「ガイズの初恋話v」 「…えーっと」 天使と悪魔の葛藤。逡巡は、一瞬。 「……聞きたい……です」 葛藤の末、シオンは己の中の悪魔に負けた。ヴァルイーダは『そうでしょう?』とニッコリと笑ってシオンの手を放す。 「な…っ!誰も助けてくれないのかよーっ!」 「分かったら、さっさと話して話して」 「そうそう」 周囲から攻め立てられ、孤立無援の状態で――とうとう、ガイズは口を開いた。 「初恋って言っても…大した話じゃないぜ?俺、まだ小さかったし…」 その頃、少し離れた所から、看守二人もついつい聞き耳を立てていた。 主任の、目下の思い人、139番。 その初恋話なんて――興味が沸くのは当たり前だろう。 「まだ俺が随分小さいときだから、正直記憶も朧げなんだけど…ウチのお袋が、どっかのお屋敷に期間限定で雇われたことがあったんだ。何でもメイドが足りなくなったらしくて、洗濯婦にって。…凄く給料が良かったんだけどさ、でもまだ小さい俺を家に残して置けなくて――それで俺を連れて、お袋は屋敷に通ってたんだ」 でも連れて行く代わりに、絶対に泣くな、迷惑をかけるなと母にはきつく言われていた、とガイズは語った。 「…でもさ、子供だろ?やっぱこっそり遊んでる内にケガとかする事もあるんだ。――それでも泣かないように頑張ってたんだけど、一回、転んで結構酷い怪我しちまってさ」 母親を呼びたいのに、痛くて痛くて呼びにも行けない。 泣いて誰かを呼びたくても、それは禁じられている。 幼いガイズは怪我した膝を抱えて、一人広い庭の隅で蹲っていた。 「その時、その屋敷の女の子が来たんだ…『女の子』ってより、お姉さんかな。10歳くらい上の」 「おっ?年上かぁ〜?」 「しかも10歳も上のお嬢様!まっせたガキだなぁ、お前」 口々にからかわれて、ガイズは真っ赤になって手を振る。 「そ、それで!その人が水場まで連れてって、綺麗なハンカチ濡らして、傷口を洗ってくれたんだ」 さらさらと靡く金の髪が綺麗だった、とガイズは言った。 「正直…それまで見たことはあっても、いつも部屋の中にいて、窓越しでさ。しかも見上げてるといっつも目を逸らすから、最初は澄ました、イヤな奴だなぁ…って思ってたんだけど」 ガイズは、遠い目をする。 …そして少し離れたところで、看守二人も遠い目をしていた。 「…えーっと…?」 「…まさか…まさかだよ、なぁ…?」 顔を見合わせ、乾いた笑みを二人で零す。 「それで…手当てしてもらってる間も泣かないようにしよう、泣かないようにしよう…!って頑張ってんのに、その人に傷口洗われてると、今まで我慢できるくらいだった筈の傷が、何だかますます痛くなってくるんだ…」 「ああ…分かる」 シオンが頷いた。 「手当てしてもらったりとかしてさ、安心すると逆に急に痛くなってくるんだよな。もう、自分一人で我慢しなくていいって思って…気が、緩むのかな?」 そうだったのかもな、とガイズは笑う。 …いや、そうじゃなかったかも知れないぞ…?と看守二人は心の中で突っ込んだ。 もしかしたら、その『屋敷のお嬢さん』… わざと君の傷をザリザリ擦ってたのかも知れないぞ…? 何て言える訳もなく、ガイズの思い出話はまだまだ続く。 「でさ、どんどん痛くなる傷を必死で俺、我慢していたんだけど…最後にその人に『我慢しなくていい』みたいなこと言われて、頭撫でられて…つい、さ、泣いちまったんだ…」 照れくさそうなガイズの言葉を、4人は静かに聞いている。 「で、その後直ぐにお袋が迎えに来て――怒られたなぁ、あの時は。『ご迷惑をかけて!』って。それでそのまま引き摺られるみたいにして家に帰ったんだ」 幸い、その日が屋敷に行く最後の日だった所為か、ガイズの母は何ら咎めを受けなくてすんだ。 「…でも、その代わり…借りっぱなしのハンカチは、返せなくなったままだった」 それ以来、二度と会っていない、とガイズは話を締め括った。 「…それで、ガイズは今も初恋の君の思い出を、ポケットに入れて持ち歩いてるんですよね?」 「な…バラすなよ、ヴァルイーダ!」 「え!?マジで!?今も!?」 「ちょ…!やめろってば、ジョゼ!何処触って…!」 「ハンカチはガイズの左のポケットですよ」 「ヴァルイーダの裏切り者〜!」 「お。これか〜」 するりと横から手を伸ばしたエバが、四角く折りたたまれた白い布を取り出した。 「へぇ…上等なハンカチだな」 「あれ?ここに刺繍がある」 「…でも、ほつれてて殆ど読めませんね…」 「こら!返せよー!」 ガイズは憤然とエバの手から、大事な思い出を取り上げる。 「なあ、ガイズ…もしかしてその刺繍のところ、その人の名前だったんじゃないのか?」 「…だと思うけど…昔、俺このハンカチ大事にしすぎて『洗うのも自分でやる!』って聞かなかったらしくてさぁ…案の定、子供の下手な洗濯だろ?ボッロボロにしちまったんだよ…」 刺繍糸も、その時ほつれちまって…とガイズは肩を竦める。 「そっか…これじゃあ名前の判別は無理だなぁ…」 エバはガイズの手の中のハンカチを覗き込む。 「でも…頭文字は”D”っぽいぞ…?『ダイアナ嬢』とかかな…?」 『…頭文字”D”…!』 二人の看守ズは完全に凍りついた。 「なーなー…何でさっきから俺には見せねぇんだよ、ガイズ」 寄越せ、とハンカチの端を引っ張るジョゼに、ガイズは全力で抵抗した。 「やめろ!シオン達なら兎も角、お前物の扱い荒いだろ…!破っちまいそうで、怖くて貸せねぇよ!」 「テメェなぁ…!寄越せ!見せろ!」 「嫌だってば!」 「こらこら、ジョゼ…」 見るに見かねたエバが止めようとした矢先、白いハンカチは二人の手を離れ、看守ズの足元にふわりと舞い落ちた。 「…………!!」 途端、シルヴェスとジャーヴィーは我先にとハンカチを拾い上げ、『”D”から始まる刺繍部分』を確認する。 「…………」 「…………」 見なければ、よかった。 そこにあったのは紛れもない――『パンドラの箱』だった。 「あ…!すみま…せ…」 駆け寄ってきたガイズは、引き攣った表情でハンカチを手にしている看守たちに気付いて、びくびくと謝る。 「いや…構わない」 言いながらジャーヴィーは、油の切れた人形のようなギクシャクとした動きでハンカチをガイズの手に返した。 シルヴェスならまだしも…乱暴さではデューラの次に定評のあるジャーヴィーの意外な態度に、ガイズは驚いて動きを止める。 それをフォローするようにシルヴェスが言葉を添えた。 「いいんだよ。それは君の大事なものなんだね?…持っておきなさい」 「ああ…『美しい思い出』は、大切に取っておくべきだからな…」 …そう、『美しい思い出』は。 「「でも、主任だけには絶対に見つからないようにな」」 妙に迫力のある看守ズに、ガイズは気おされたようにコクコクと頷いた。 はつ恋の思い出は、いつまでも美しいままで取っておく事にしましょう。 END |
何食わぬ顔でデュラガイの年齢差を捏造。 大体10〜12歳差くらいかな?と思っています。 しかし、例えば17歳と27歳なら、そこまでの犯罪性を感じないのに、 4歳と14歳では、激しく男性向け(ロリ系)を書いてる気分になったりならなかったり。 あ、幼いガイズは兎も角主任が『お姉さん』に間違われた理由は、サラサラの金髪と綺麗な顔です。 ガイズにとって、大人の男の見本は父と兄なので。 あーんな美人の男が居るとは夢にも考えませんでした。 ちなみに口調の乱暴さについては、10年の歳月の間にお互い都合よく変換しているようです。 |
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