娯楽の少ない監獄の中では、囚人達は自由時間の暇つぶしに苦慮している。
 そんな中、一人の男が退屈を持て余す少年達にこう提案した。

「――なぁ、もう夏も近いことだし、いっちょ怪談話でもしてみないか?」









監獄伝説









「…それで、その声に『赤いマントをくれ』って答えちまったら、頭上からナイフが落ちてきて血まみれになって死ぬんだってよ…」

 おしまい、と言ってジョゼはニッと唇を吊り上げると周囲を見渡す。――具体的には、自分の斜め前にいる、大きな金目の少年を。
 だが、ジョゼの期待とは裏腹に、少年は平然とした表情で座っているだけで。悲鳴を上げることまでは期待してなかったとしても、怯えたような姿すら見せない。そんな彼に、かなりジョゼは落胆した。

「…って、お前ぜーんぜん怖がってねぇじゃねぇか…ちったぁ怖がれよ、ガイズー…」
「おーい…何で俺が名指しなんだよ。エバはともかく、他にシオンだってイオだっているじゃん」
「だって、お前がこん中で一番チビだろ?我慢し無くったっていいんだぜ?遠慮なく『こわーい』とか言ったって構わねぇよ?笑わねぇから」
「ばーか。…大体、ジョゼは話がヘタクソなんだよ。拙すぎて聞いてたってウソって丸分かりだし、怖くもなんともねぇって」
「あぁ!?何処がだよ!」
「だって、さっきの話だって『トイレに入ったらいきなり頭上から『赤いマント居るか…?青いマント居るか…それとも、緑――』 あ、ちょっと待て。最後の一個…緑だったっけか…?紫…?いや、違うよな。オレンジでもねぇし…あー、ちょっと待て!今考えるから』って。
思いっきり『今考えて』んじゃねぇか
「わぁるかったな!創作意欲ってヤツが溢れすぎてんだよ!俺の場合!」
「はいはい。とにかくぜーんぜん怖くありませんでしたよーだ」

 べー、と舌を出すガイズに、『意外とガイズは怪談とか怖がらないんだよな…』とシオンも苦笑する。

「あ、で、でもジョゼ…今の話、僕はすっごく怖かったよ…?」
「…あーもー、いい…気ぃ使うことねぇよ、イオ…」

 フォローのつもりが逆に追い討ちをかけたらしく。止めを刺されたジョゼはがっくりと肩を落とした。
 その頭をぽんぽんと宥めるように撫でてやりながら、エバはニッとガイズに笑いかける。

「しっかし判定厳しいなぁお前ー。じゃあ、さっきのおにーさんの話はどうだった?自分で言うのも何だが結構な自信作だぞ?」
「うーん…確かにエバ、文章を普段から書いてるだけあって話は上手いし…しゃべり方も上手だし…」
「お、割と高得点?」
「……っだよ!エバばっか!」
 嬉々としてずい、と身を乗り出すエバとは対照的に、ジョゼは膨れっ面でそっぽを向く。

「んー、でもー」
「?でも?」
「でも、却って上手すぎて嘘くさいって感じがしたな。本当に良く出来た『お話』聞かされてるみたいな」
「あっちゃあ…ホントに厳しいなー、お前の判定…」

 額を押さえるエバに、ごめんごめんとガイズは笑う。

「じゃあさ!肝心のお前はどうなんだよ!俺やエバの話にそこまで言うってことは、お前はもっと凄い怪談知ってんだろうな!」
「…『怪談』…?」

 ふっとガイズの顔から突然表情が消えた。
 仮面を纏ったような見たこともないほど冷たい顔に、一瞬ジョゼ達は勿論、エバまでもが息を呑む。

「…聞きたい、か?」
「……あ」

 僅かに気圧されるものを感じたものの、このままでは引き下がれなくなったのだろう。ジョゼは勢い込んで頷く。

「あ、ああ!当たり前だぜ!…でも、怖くなかったらお前、分かってるだろうな!?」
「…十分怖いと思うぜ。…何たって実話だし」
「実話……」

 こくりと唾を飲み込む4人を前に、ガイズはゆっくりと口を開いた。








「前に、夜の自由時間のときにヴァルイーダが俺の独房に遊びに来たことがあったんだ」



「俺達は、ベッドに二人で腰掛けて他愛も無いことを話してた」



「それから暫くして、ふとヴァルイーダが壁にかけてある鏡に目をやって――それで、俺に言ったんだ」



「『ガイズ。私、今日は洗濯しなければいけないのすっかり忘れてました』って」



「でも俺としては、もうちょっとヴァルイーダと話したかった。だから嫌がってゴネたんだ。『洗濯なんて今度にすればいいじゃん』。『もうちょっとヴァルイーダと話してたいよ』って」



「そしたらヴァルイーダってば、『じゃあガイズも私と一緒に洗濯に行きましょう?そこで洗濯しながらお喋りしましょう』って言い出すんだ」



「でも俺、出来たら二人で話したかったし――『そんなのやだ』って言ったんだけど」



「珍しくヴァルイーダは強引で、『そうと決まったら行きましょう行きましょう』って言って、無理矢理俺を引きずって独房を出ちまったんだ」



「それで俺の手を攫んで廊下をずんずん歩いてくんだけど、その歩いてく方角が明らかに洗濯場の方向じゃねぇんだよ」



「『待てよ。洗濯場はこっちじゃねぇだろう?』」



「不思議に思った俺が、ヴァルイーダの腕を引っ張ったら、アイツは真剣な面持ちでこう言った」



「『気づかなかったんですか?ガイズ』」






「『さっき あなたのベッドの下に――』」























「『警棒持ったデューラが潜んでたんですよ』って」






















「……………」
「で、その後二人でシルヴェスさんのとこに通報しに行きました」
「……………」
実話です




 全員が、ぎくしゃくと視線をガイズのベッドの下へ向けた。




 青い服の裾が、ちらりと見えた。

















END

















ちょっとおまけ。その後のお話。





多分監獄に新人が入ったら、シルヴェスにこういうご案内をされると思う。


シル:…で、そこの独房の者が140番、ヴァルイーダだ。
新人:…あ、よろしくお願いします…
ヴァル:ええ。よろしく(にこり)。
シル:で、隣の独房の子がガイズだ。君とは年も近いから、仲良く出来るだろう。
ガイ:よろしくーv
新人:う…うん、よろしく!
シル:で、あのベッドの下の人がデューラ主任な。
新人:え……?…って何なんですか『ベッドの下の人』って!!
ガイ:っつーかまだそこに居たのかお前――っ!!








ちなみにこ話を聞いたら3日以内に、貴方のベッドの下にも警棒持った主任が現れます。
元ネタはこちら ⇒都市伝説 ベッドの下の男












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