オフィシャルに真っ向から反抗する鳥呼さんの看守SS
<傾向>
・世間の波に逆らって、CPはシルヴェス×ジャーヴィーです。
・灰髪さん×赤毛さんです(しつこい)。
・ついでにシルヴェス先輩の、ジャーヴィー後輩です(オフィシャルに逆らい過ぎ)。
・ジャ−ヴィーは、この世で一番大切な人はと聞かれたら恥ずかしげもなく『母ちゃん』と答える、ちょっとおバカなかわい子ちゃんです(フィルター標準装備)。






それでも宜しければどうぞー。
























 真夜中のcoffee brake








 コンコン、というやや控え目なノックの音に、シルヴェスはペンを置くと振り返り、どうぞ、と声をかけた。
 振り返る直前、ちら、と見遣った時計の差す時刻は、午前2時過ぎ。返事はしたものの、こんな時間の訪問者は一体誰なのかとふと首を捻る。尤も幽霊を怖がる年でもなし、恐ろしくなどはないのだが。
 どうぞ、と声をかけたものの、訪問者が入ってくる気配は無い。頭の中で10秒ほどカウントしてから、シルヴェスは徐に椅子から立ち上がった。
 自分の予想が正しければ。恐らく、このドアの向こうには。

「…見ていても、開かないよ」
「…うわっ!」

 中からドアを開けると、いきなりの事に驚いたのか訪問者は間抜けな悲鳴をあげて、廊下を2,3歩後ずさった。自分からノックしてきたくせに、いざドアが開くとこんなに驚くなんて、とシルヴェスは小さく笑う。
 それを即座に見咎めて、訪問者は眉を怒らせた。

「…笑うな!」
「…はいはい。で、こんな時間に私に何の用かな?」
「あ……」
「用が、あるんだよね?」

 穏やかに問い詰めると、訪問者はうろたえたように視線を意味無く彷徨わせる。
 彼が此処を尋ねてきた理由を恐らく正確に理解していながら、それでもシルヴェスは助け舟を出す事無く、眼を細めて目の前の長身の青年を見詰めた。

「…君は『ジャーヴィー』だね?一昨日から、この刑務所の配属になった」
 訪問者は、シルヴェスが予想した通りの相手だった。そして、尋ねてきた理由も恐らくは予想通りなのだろう。

「…もしかして、眠れないのかい?」
 子供にするように柔らかく尋ねる。ジャーヴィーはふい、とそっぽを向いた。
「別に。…ただちょっと廊下に出てみたら、まだ明かりがついてる部屋があったから」
 唸るような声で否定はしたものの、『こんな時間に廊下に出ていた』と告白した時点で、『眠れない』というシルヴェスの言葉を――ひいては、人恋しい自分を肯定したも同然だという事に、本人は気付いて無いようだった。
 シルヴェスは小さく笑って肩を竦める。
「…ああ。まだ、仕事が終わらなくてね」
「そうなのか?アンタ、真面目そうに見えたのに」
 意外、と呟いてジャーヴィーはドアの隙間からひょいと首を突っ込むと、机の上に散乱した書類を見遣った。大きな図体に似合わない子供じみた仕草にシルヴェスは唇を綻ばせる。

「立ち話も何だから、中に入ったらどうだい?お茶位は出すよ?」
 ドアの前から身体をずらし、中に招きいれようとすると流石にジャーヴィーはしり込みする。
「でもお前、仕事…」
「そろそろ気分転換しようと思っていた所だから」
 だから、と言いながら棒立ちになっている相手の腕を掴んで引く。常に無い自分の強引な態度の理由は、シルヴェス自身にも把握出来なかった。ただ、『このまま彼を帰すことは出来ない』と、『このまま一人にすることは出来ない』という思いだけが、妙にはっきりとあった。

 3日前にやって来た、やや目つきが悪くて年下の癖に自分より上背があって先輩に敬語を使えない同僚。
 ホームシックで他者の温もりを無意識に求める様子が、驚くほど頼りなげに見えてしまったからだろうか。







 初めて入るのであろう自分以外の看守の部屋を、ジャーヴィーは興味津々といった様子できょろきょろと眺めていた。
「面白いものは何も無いけれど」
「ホントにな。…殺風景」
 遠慮も何も無い言葉だが、悪意の全く感じられない口調の所為か腹は立たなかった。
 きっと思ったことをそのまま口に出してしまう性質なのだろう。良く言えば、天真爛漫。悪く言えば、バカ正直。
「あ。今やってる仕事ってコレだよな?」
 彷徨う目線がふと先ほども見ていた書類の上で止まる。
「…どんな事やってんだ?」
「それは…」
 手を伸ばして書類を取り上げようとするシルヴェスの手を掻い潜って、ジャーヴィーが散乱した紙の一枚を手に取った。
 そして斜め読みに眼を通すや否や――酷く不快そうに、眉を顰める。
「…一介の看守が、こんな書類にサインするのか?」
 違うだろ、とひらひらと振られるのは、予算に関する重要書類。
「それに、サインが――」
 お前の名前じゃない、とジャーヴィーはシルヴェスを睨み付けた。
「お前…誰かの仕事押し付けられてんじゃねぇのか!?…こんな時間まで…」
 我が事のように腹を立てるジャーヴィーを宥めるようにシルヴェスは口を開く。
「仕方ないさ、それは主任の…」
 だが、怒り心頭のジャーヴィーを宥めようと出した名前は、却って逆効果となった。
「『主任』!あの男か!?…ったく、俺が見ててもロクに仕事してねぇと思ってたが…!まさかデスクワークまで部下に押し付けてたなんて…!」
 あのバカ上司が!仕事しやがれ、給料泥棒!と拳を震わせるジャーヴィーを見ると、ふと心が和んだ。
 半ばこの刑務所で黙認されつつある、主任の異常な独裁体制。それにも半分慣れはじめていたシルヴェスにとって、ジャーヴィーの怒りは(それは世間一般に見てごく当然の意見なのだろうが)何処か新鮮に思える。
 だが、とシルヴェスは思った。
 此処に限らず、世間は『正しさ』だけでは回っていない。いや、むしろ声高に『正しさ』を叫ぶものほど、排斥される傾向がある。
 このジャーヴィーとて、此処の最高権力者たる主任への批判を堂々と行えば――その末路は知れているだろう。

「…そんな風に言うものじゃないよ」
 やんわりと窘めた。正直で、真っ直ぐな怒りを捻じ曲げるのは心苦しかったけれど。それでも、主任や、主任に取り入りたい他の看守たちに目を付けられるよりは――ずっといい。
 とは言え矢張り反発されるかな、とちらりとシルヴェスは思った。反発されたら、自分でも納得の入っていない事柄だけに反論も出来やしない。
 だが意外にもシルヴェスの言葉を、ジャーヴィーは素直に聞き入れた。
「悪い…あんなんでも、一応上司だもんな…」
 『主任に悪い』というよりは、『彼を非難しては、彼を上司に持っているシルヴェスに悪い』と思ったのだろう。
 生意気そうな外見や言動とは裏腹の、不器用な気遣いが少し可愛いなとシルヴェスは思った。

(…『可愛い』…?)

 ふ、と自然に浮かび上がった言葉に、シルヴェスは肩を揺らす。
(何を考えているんだ、私は…)

 ふる、と頭を振ろうとしたとき、『もしかして怒っているのか』と不安げに此方を見詰めるジャーヴィーと眼があってしまった。
 一瞬跳ね上がる心拍数。訳もなく狼狽したシルヴェスは、どこかぎこちない仕草でジャーヴィーに背を向ける。
「あ…ああ、そうだ。何か淹れるんだったな。コーヒーでいいかい?」
「え…あ、あぁ…」
 いつでも上手く笑えると思ってたけれど。
 この時ばかりはそんな自信は全く無くなっていて、ただ振り返って浮かべた笑みが引き攣っていないことを祈るのみだった。
 ――そしてジャーヴィーも又、告げられた言葉に一瞬固まってから頬を引き攣らせつつぎくしゃくと頷いた事に、自分の事で精一杯だったその時のシルヴェスは、気付けなかった。








 袋を開けると、コーヒーのいい香りが部屋に広がる。
 シルヴェスにとってはお馴染みのその香りに、跳ね上がっていた謎の心拍数も、漸く沈静し始めたようだった。
 と、周りを見渡す余裕が生まれたシルヴェスの眼に、ふと異様な気迫を込めて此方を見詰めているジャーヴィーが写った。
 出された二つのカップ。注がれる黒い液体。それら全てを、まるで親の仇でも見るような物凄い目つきで睨みつけている。
 外見の所為で怒っているようにも見えるが、シルヴェスから見るとそれは何処か落ち着かなげで、何処か…『不安げ』、で?

(ああ。…そういう事、か…)
 ふっと一人微笑むとシルヴェスは空になったポットをトン、と置く。
 そして、悪戯を考えた子供のように楽しげな様子で、傍らにあった『あるもの』を手にとった。

「あーっ!」
 唐突に部屋に響き渡ったシルヴェスの悲鳴に、ジャーヴィーはビクン、と肩を揺らす。
 些か大袈裟な驚き様だったが…無理も無いだろう。誰だって、口に入れるものを作っている最中に、そんな風に叫んで欲しくは無い。
「ど、どうした!?」
 駆け寄ってきたジャーヴィーに、シルヴェスは情けなく眉を下げてぼやく。
「うっかりいつものクセでミルクを入れてしまったんだよ…」
「は?『ミルク』?」
「そう。あと、砂糖も大量に」
 シルヴェスが掲げて見せたカップを覗き込むと――成る程、確かに漆黒だった筈のコーヒーが、ミルクに薄められて柔らかな淡い茶色に変わっていた。
「…それは分かったけど…何か問題でもあるのか?」
「ああ、大有りさ。今から書類書くから、眠気覚ましにするつもりが…」
 さてどうしようか…とシルヴェスはぶつぶつ独り言を言いつつ、手にしたカップをくるくる回した。
 と、何かいい事を思いついたのか、カップの回転がぴたりと止まる。
「…そうだ」
「?」
「君、もし嫌じゃなかったら、これを『私の代わりに』飲んでくれないかい?」
「え…?」
 呆然とジャーヴィーの眼が見開かれた。それに畳み掛けるように、シルヴェスが続ける。
「捨ててしまうのも勿体無いし…君はこの後、そのまま眠るんだろう?」
「あ…ああ」
「それじゃあ…頼めるかな?」
 差し出されたカップとシルヴェスの顔の間を、ジャーヴィーの視線が戸惑ったように行き来する。
「わ、分かった」
 どもりながらも、ジャーヴィーはカップを受け取った。そしてミルクを加えたことでやや温くなったそれに、ゆっくりと口をつける。
 恐る恐る一口目を口に含んだ瞬間、ジャーヴィーは驚きに目を見張った。そして二口、三口。こくり、こくりと幾度も喉が動く。


「…美味しいかい?」
 淹れ直したブラックコーヒーを口に運びながら、シルヴェスが問い掛けた。

「…まあ、こんなもんじゃねぇの?」
 こくりとまた一口カップの中身を飲みながら、ジャーヴィーは無愛想に答えるとそっぽを向いた。











 そして二つのカップが空になった頃、ジャーヴィーは徐に椅子から立ち上がった。
「それじゃ、俺はもう行くからな。…邪魔して、悪かった」
「もう、なのかい?」
 思わず不満げな声を漏らしてしまった自分に、シルヴェスは驚く。だがここで引き止めるのも不自然だろうと大人しく立ち上がり、ドアまで送り出すことにした。

 扉を出た瞬間、ジャーヴィーがくるりと此方を振り返る。

「お前」
「?」
「さっき、『いつものクセでミルクを入れた』って言ってたけど…アレ、ウソだろ」
「…………」
 答えないシルヴェスに、苛立たしげにジャ−ヴィーが噛み付いた。
「いっつもお前、コーヒーはブラックで飲んでるだろうが!……ったく、見え透いたウソ、吐きやがって…」
 悔しげにジャーヴィーは唇を噛み締める。
 だが、言われたシルヴェスの方はその言葉に驚いた様子も無く、逆に平然と聞き返した。

「…何で君がそれを知っているんだい?」
「……え?」
 ジャーヴィーが、ぽかんと口を開けた。
「…確かに君の言う通り、普段の私はブラックコーヒーしか飲まない。…だけど」
 淡々とシルヴェスは続ける。
「まだ君はここに来て3日しか経ってないのに、私がブラック派なんて――よく、見ていたね」

 呆然としていたジャーヴィーは、だが告げられた言葉の意味を理解するや否や、見る見るうちに真っ赤になった。
「う、うるさい!俺は帰る!もう、帰るからな!いい加減笑うなよ、お前!」
 壁に寄りかかり、クク、と肩を揺らしていたシルヴェスはその言葉に顔を上げ、ふわりと笑った。
「ああ、お休み。…『ジャーヴィー』」
 初めて呼ばれた名前に、憤然と背を向けて立ち去ろうとしていたジャーヴィーはふと足を止め、決まり悪げに振り返る。
「あ…その…何だ…」
 幾度も幾度も言いかけては止め――、とうとう俯いたままの早口で、ジャーヴィーは呟いた。


「コーヒー美味かった。ありがとな。…………『シルヴェス』」


 言い終わるや否や、ジャーヴィーは身を翻して駆けてゆく。残されたシルヴェスは不意打ちとも言える一言に、ドアの前で暫し呆然と佇んでいた。
 やがて、思い出したように首元から頬にかけてが、じわりと熱くなる。
 口元に手を当てて、シルヴェスはずるずるとその場にしゃがみこんだ。

 心拍数が早いのは、最早気のせいではない。
 常識人を気取っていた自分にとって、まさに『青天の霹靂』。
 …だけど、彼が見せたあの反応は。



「…『脈アリ』と考えてもいいんだろうか…」












 ブラックコーヒーの所為だけでなく、今夜は眠れそうにない。




(そしてそれは、ミルクの分量がやたらと多いカフェオレを飲んだ筈の、彼も)




















END


















お疲れ様でした。…ホントに疲れたろうと思います。
『2月8日萌えをありがとうSP・第二弾シルジャー編』です。
こちらはまず、鳥呼にめくるめくシルジャーの世界を教えて下さった、イヌスキー様に、
そして2月8日にジャーヴィー受けに賛同して下さった、素敵な貴女方に捧げます(恐ろしく迷惑)。

…って言うか何事デスカネ、この甘さハ。

シルジャーは誰かさんと違って(毒)、実に健全です。
これから中学生日記もビックリの、でんでん虫のごとき進展の遅さで周囲を果てなくイラつかせることでしょう。
次回は目標、『手を繋ぐ』からスタート。
最終目的地は、『交換日記をする』です(嘘)。

ちなみに、『シルヴェスはコーヒー(ブラック)派』と勝手に捏造。
最近のストレスと相まって、現在非常に彼の胃はダメージを受けているそうです。
そしてジャーヴィーはコーヒーが苦くて飲めない子。
うちでは母ちゃんが『コーヒーなんて飲んだら、背が伸びなくなっちまうよ!』とミルクしか出してくれませんでした。
今は(シルヴェスの淹れた)カフェオレなら何とか飲めます。大人になったね!




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