メリット・デメリット












 秋。灼熱の日差し和らぎ、木々は色づき葉を落とし始めるそんな季節。
 ふと頬を撫でる涼しい風の気配に、人はこんな事を考える。曰く。
「自分…このままでいいんだろうか」と。

 春のうららかな陽気と夏の暑さも過ぎ、誰もが自身の身をふと振り返ってしまう季節、秋。
 この時期を人生の岐路と定め、例えば現在の職などを離れて新たなステージへと向かう者も少なくはない。
 故に秋に再就職の口が増えるのも、決して理由のないことではないのだ。

 そしてそれは、彼の場所においても例外ではなく。








「…転職したいなぁ」
 就職情報誌(あるのかこの時代)をを片手に、一人の看守が小さな呻きを漏らした。
「…転職してぇ」
 面接指南書(だからあるのかこの時代に)を片手に、別の看守も呟いた。

 某国某場所某刑務所。キツイ、危険、怖いと3拍子揃った立派な3K職場において、秋風の訪れと共に職員の『転職したいぜ』願望は絶賛うなぎ登り中であった。

「畜生…就職決まったときは嬉しかったのになぁ…何てったって公務員…」
「つっても夜勤あるしなぁ…休日関係ねぇしなぁ…」
「そんなんどうでもいいだろ…問題は一点だ」
「そうだよなぁ…一点だよなぁ…でもその一点が大問題だよなぁ…

 は、と全員の口から溜息が漏れる。苦労を承知で再就活という荒波に繰り出すか。はたまた現在の職場に残り苦難に耐え続けるか。
 …どっちにしろ待ってんのは苦労じゃねぇか。そう思い至り全員の顔が一層暗くなる。
 ――とその時、慌しく廊下を駆ける足音が一同の耳に届いた。

「お前ら!聞いたか!?」

 バン、と扉を開けて叫んだ一人の看守を、全員が呆気に取られた顔で見返す。
「…何を?」
「主任が」
「主任が?」
就職活動してる!!


 場は大混乱となった。






 事の次第を整理してみるとこうだ。

 時は本日お昼過ぎ。一人の看守が報告書を持って上司の元を訪れたところ――彼らの上司様が珍しくも熱心に本をお読みになっていらっしゃったのだという。
 どうせまたロクでもない本だろう。そう思い関わり合いにならない方向で辞去しようとした彼であったが、ふとその表紙が目に入ってしまったのだ。

「成功自己分析・自己PR〜自分の「メリット」がすぐわかる」

 というタイトルが。




「イヤイヤでも主任が再就職ってそれはねぇだろ!」
 騙されねぇぞ俺はとばかりに看守の一人が声を荒げる。
「そうだ!大体139番が刑務所に居るってのに、あの『139番スキスキ大スキ超愛してる』な主任が此処を離れるわけねぇだろ!」
 立て続けに同僚に怒鳴られて怯む看守X(仮名)。しかしこの時一人の看守がいや、と首を振った。
「これは囚人達の間での噂なんだが…何でも139番の奴、今度の再審で判決をひっくり返せるくらいのかなり有力な証拠を手に入れてるんだとか…!」
「そうか…それで最近139番の奴、ちょっと機嫌がいいのか…」
「そうか…それで最近ウチの主任、かなり盛大に機嫌が悪いのか…
 ってことは、と一人が手を叩く。
「139番がムショを出たら、もう自分と逢えなくなっちまうから…!」
どこまでもどこまでもついてくつもりで!
「刑務所以外の就職先探してるってか!?」
「うわぁ凄くありそうでイヤだ!!

 想像した全員が背筋を震わせる。
 だけど、と一人の看守が手を上げた。

「そしたら主任…この刑務所から居なくなるんだぜ…?」
「!!」

 はっと全員が顔を見合わせる。主任の居ない監獄。主任の居ない職場。…それって何て天国?

 いやいやでも、と一人が首を振る。
「その平和は…139番の人生を犠牲にして得られる平穏だろ…?」
 甘いな、と一人が低く呟く。
「誰もが幸せになる道なんてどこにも無いんだ。一人が笑えば、その所為で何処かで涙を流す人間が出る。幸せの絶対量はいつだって一定で、増えたり減ったりはしねぇ。それが世の中ってモンだ」
「俺達がに必要なのはたった一つ。覚悟だ。自身の幸せのために一人の人間を犠牲にできるか、という…」
 重々しい言葉に、全員が神妙な顔をして頷く。

「…ということで決を採ります。『139番を犠牲にしてでも己の職場の平穏が欲しい人』」

 全員の右手が、天井に向かって真っ直ぐに伸びた。










 ということで主任の就職活動を(水面下で)全面バックアップしようと決意した健気な、そして非常に利己的な部下達である。
 しかしながら、見逃せない重要な問題点も指摘された。

「…ってか主任、普通に就職活動して職決まるのか…?」
 なんせ現在の仕事場は、親御さんのコネと権力とその他もろもろの汚い手とで勝ち得たものである。
 筆記試験はどうなのだろうか。何せ出来の悪い末息子殿だ。まぁその辺は愛の力で何とかして頂くとしても、問題は面接とか。それ以前に選考に至るまでの履歴書書きとか自己PRとか。不安の種は尽きない。

「素直に親父殿に泣きつけばいいのに…」
「ダメだろ。看守になれっての親父殿の命令らしいぜ。だったら今回の転職活動だって、反対されてると考えてしかるべきだ」
「だから流石に今回は主任も不安なんじゃないか…?「成功自己分析・自己PR〜自分の「メリット」がすぐわかる」に頼っちゃうくらいだし…」

 しかし今回、部下達の心は一つだった。無事に主任を送り出すためなら、どんな苦労も耐えて見せましょうとも!

 …という皆の心の声が聞こえたわけでは無かろうが――ある昼下がり、直属の部下二人の前で、看守主任ことデューラ様は珍しくも酷く言いにくそうに口を開いた。

「お前らに…聞きたいことがあるんだが…」
「「!!」」
 ついに来たか!とばかりに二人の部下は振り返る。
(さぁ主任!聞きたいことは何ですか!?面接でのマナーですか?それとも手紙の書き方ですか!?)
(それともちょっと基本的に適職の判断ですか!?志望動機の作り方ですか!?)
(さぁ主任!聞いてください!)

 妙に気合の入った部下二人に気付いただろうか。「成功自己分析・自己PR〜自分の「メリット」がすぐわかる」を机上に置き、どこか憂いを含んだ瞳でデューラは呟いた。



「俺の良いところって何処だと思う?」
「…………」



 取りあえず10個くらいでいいから挙げてもらおうか。その言葉に部下二人は――シルヴェスとジャーヴィーは、完全に固まった。

 彼のフェルマーの定理よりも難題じゃないかなぁ、と凍りついた思考の端っこでシルヴェスは思った。









「無理だ」
 傍らの相棒が暗く呟く。『諦めるな』と言ってやりたいが、何分当の自分が諦めたくて仕方ない以上、それを他者に言うことは出来ない。


『この間から、この『自己PR』って奴を考えているんだが…俺の良いところなんざちょっと考えただけで山と出てきちまって却って文章が纏まらねぇ。だから手近な所でお前らに聞こうかと思ってな。毎日この俺様の勤務風景を目の当たりにしているんだ。俺の良い点なんざ考えなくても出てくるだろう?』

 さぁ言え、言いやがれと迫られてシルヴェスは考えた。ちなみにこの時点で脳細胞がショートしてしまった相方は完全に使えない存在と化していたが、彼は頑張った。
 頑張って考えて考えて――それでも、出てこなかった。
 黙りこくったままのシルヴェスに、段々とデューラの表情が険しさを増してくる。
 その手が腰の警棒に伸びかけた瞬間――シルヴェスの脳は、ついに起死回生の案を弾き出した。

「わ、私達では答えることが出来ません!!」
「…あぁ?どういうことだ」
「ですから、私達では主任に近すぎて、意見に客観性が欠けるんです!確かに挙げるのに困ってしまうほど沢山思いつくんですが(嘘)、多分挙げたところで、主任ご自身の意見と大差ないのではと……!ですから!」
「『ですから』、何だ?」
「他の人に聞いてみます!!」






 かくしてシルヴェスとジャーヴィーは、『主任のいいところってどこですか』アンケートを実施すべく刑務所を歩き回る羽目となったわけである。

「無理だ」
 もう一度ジャーヴィーは呟いた。
「誰に聞いたって出るわけないだろあの主任のいいところなんて!!無理無理無理絶対無理だって!」
「待てジャーヴィー!」
 もうやだー、と逃げようとする相方を慌ててシルヴェスは押さえつける。
「一つ良い心当たりがあるんだよ!」
「何だよ!」
「ある人間に頼んでみたらどうかと思っ…ああ、居た!エバ!!」
 遠くに見えた青年に向かってシルヴェスは大きく手を振る。エバは看守を相手にしても変わることの無い人好きのする笑顔を浮かべながら、二人に歩み寄ってきた。

「今日はどうされたんですか?囚人の俺に頼みごとなんて」
「…君は確か…服役する前は新聞記者だったんだよな」
「……ええ」
 はにかみながら頷くエバの手を、がしっとシルヴェスが握る。
「なら、人を注意深く観察するなんてお手の物だよな!?」
「はぁ…まぁ」
「文章を作ったり書いたりするのも得意中の得意だよな!?」
「え…?ええ、多分人よりは多少慣れてるかと…」

 なら、とシルヴェスが身を乗り出す。

「主任の良い所を書き出してくれ!!」
「……………………………すいません俺急用が

 すかさず逃げようとするエバを、絶妙のタイミングでジャーヴィーが押さえつけた。

「逃げんな!文章作るの得意って今言ったろお前!」
「人間観察だって得意だと言ったじゃないか!なら出来るだろう新聞記者!!」
「いや断言してもいいですけど無理。どんな有能新聞記者でもそれは無理ですって!」
「諦めるな!文章を駆使し、嘘を吐かずにかつ真実は巧妙に覆い隠し、愚昧の民を思い通りの方向へと煽動するのがマスコミだろうが!!
あんたジャーナリズムを何だと思ってんだ!!
「…やっぱり…あんたでも無理なのか…」
「…言いにくいけれど率直に言います。!『あったかい氷を作れ』並みに無理な注文です
「そこまで言うか」
「言いますとも」

 きっぱりはっきりと返されて、二人の看守はがっくりと項垂れた。

「ああ…こんなことじゃ主任に殺される…」
「やっぱり最初っっから無理だったんだ…あの欠点塗れな主任にいいところを見つけようなんて…!」
 さめざめと両手で顔を覆って嘆くシルヴェスとジャーヴィーに、エバは困ったように頭を掻いた。
 基本的に彼は兄貴肌で面倒見がいい。故に困っている人間を放り出すことが元来出来ない性格なのだ。たとえそれが『あったかい氷を作れ』並みに無理な注文でも。

「それじゃぁ…こういうのならどうかな…でも」
「「何だ!?」」
 ぽつりと一人ごちたエバに、二人の看守は必死の形相で食らいつく。
「いや…あんまりいい方法じゃない気もするんですけどね…」
「何でもいい、言ってみてくれ!」
「『弱みは強み。欠点は長所』ってのを使うんですよ」
「…?ってどういうことだよ?」
「ですから、デューラ…主任の欠点だけならお二人は良く分かってるんですよね?じゃぁそれ一個挙げてもらっていいですか?」
一個といわず、幾つでも語ってやるが。何なら各エピソードも含めて明け方まで
「…いいですよ、取りあえず一つで…」
 どうぞ、とエバに促されシルヴェスは溜息混じりに口を開く。

「…まず、我侭で自分勝手だ。ガキ大将がそのまま大きくなったような状態で、しかも刑務所の長だから誰も何も言えん」
「…成る程、確かにそれは困ったことですね――でもそれを裏返して、言葉を飾ったら見事な美点になりませんか?」
なるかよ!
「なりますって。…例えば…そうだなぁ…『我侭で自分勝手』は
『自分の意見をはっきり言うことが出来、かつそれを実行できるだけの行動力がある』…って言ってみるのはどうですか?それに『刑務所の長である』ってトコは、『リーダーシップを発揮できる』とかって言い方に出来るかも」
「…………」
 鮮やかな発想の転換に、二人の看守は言葉を失う。
「人の性質ってのは、一方向からだけで捉えることは出来ないんです。良いようにも悪いようにも言い換えることが出来る。短所は即ち長所ってことです。少し大人しくて暗く見える奴は、『思慮深い』って言い換えてやればいいし、逆にお調子者な奴なら、『明るく社交的』って言ってやれば随分印象が違ってくるでしょう」
 しかも嘘ついてるわけじゃないですから、真実味も増しますしね。と続けるエバに、二人は一条の光明を見出したかのごとくコクコクと頷く。

「そ…それなら…イケるかもしれない…!何せあの主任だ!短所だけなら山のようにある!!」
「そうだ、相手はあの主任だ!『短所が沢山ある』どころか、短所だけで人体が構成されてるような生物だ!

 ありがとうありがとう一生感謝する、と涙ながらエバの手を握って去っていった看守二人を、エバは苦笑の混じった優しい眼差しで見送った。
 だが、もしこの後ガイズに起きる大災難を知っていたのならば――エバは決して二人を助けることは無かっただろう。






 エバというブレーンからの助言を得て、二人は意気揚々と廊下を進んだ。
 その途中で出会う囚人たちに、ここぞとばかりに尋ねてみる。『ウチの主任の悪いところってどこですか?』

「あぁ!?とにかく仕事しねぇことだろ!?やりたい放題じゃねぇか!仕事しやがれたまには!
 不機嫌極まりない様子で銀髪の不良少年が返した。

「え…えと…いつも偉そうに歩いてきて…人に怒鳴ったり命令したりするとこがちょっと怖い…です」
 おどおどとこちらを見上げて、気弱な少年は答えた。

「デューラの嫌なところですか…?色々ありますけど特に、『どこで思いついてくるんですかそれ』と言いたくなる様なとんでもない事ばっかり思いつくことでしょうか…」
 物静かな軍人は、疲れたような溜息をつく。

 そして最後に目にした相手に、シルヴェスとジャーヴィーは満面の笑みでもって駆け寄った。そうだ、最後は彼こそに聞いておかなければ!

139番!
「139番!」
「何ですか…?」
 明らかに警戒一色の様子でガイズは口を開く。まぁまぁ怖がらなくていいから、とシルヴェスが肩を叩くが、妙にフレンドリーなその様子にガイズは一層眉を顰めた。
「何か用ですか…?俺、これから用事が…」
「ああ、一つだけ質問に答えてくれればそれでいいんだ」
「質問?」
「アンケートだよ、アンケート」
「…アンケート?」
 そう、と街頭の胡散臭いキャッチセールスそのものの笑顔で二人はガイズに詰め寄る。


「ウチの主任の悪いところってどこだと思う!?一つ挙げてみてくれないか?」
一個といわず、幾つでも語りますけど。何なら各エピソードも含めて明日の夜まで
「…すまん…気軽に聞いて本当に悪かった…取りあえず一つでいいから…」
 

 どこかで聞いたような会話だ。かなり申し訳無い気分になりつつシルヴェスは伺うようにガイズの顔を覗き込む。

「そうだなぁ…死ぬほど沢山在るんだけど、取りあえず一番イヤなのは滅茶苦茶しつっこいこと!!ってかおはようからおやすみまで、こんにちはから今晩はまで何であんなに四六時中付きまとって来るんだよ俺に!ザコスライム何か目じゃないくらいのエンカウントっぷりだっての毎日毎日!しかもスライム並みに弱ければ問題ねぇけど、デューラ=ラスボス級じゃねぇか!ラスボスがスライム並みにボコボコ出てくるって、どんな過酷なRPGだっての!戦闘の度に俺瀕死だっての!もう何か変な呪いのアイテムでも装備しちまってるんじゃないかって疑ったっての何度も!しかも最中までしつっこいし、俺がやめろって何度も言ってるのに――」

 それ以上はちょっともう聞くに耐えなかった。看守二人は互いに目配せしあうと、まだ怒り心頭で語り続けているガイズの傍らをそっと抜け出す。

 サンプルはもう十分取れた。あとは、彼らの主任にこれを伝えるだけだ。













「結果が出ました」
 重々しい口調でシルヴェスは告げる。デューラは先を促すように鷹揚に頷いた。

「まず、エバですが『自分の意見をはっきり言うことが出来、かつそれを実行できるだけの行動力がある』、そして『リーダーシップを発揮できる』と言っていました」
「まぁな」
 うんうん、とデューラは頷く。

「そしてジョゼですが、彼は主任の
『何物にも囚われない、自由奔放な所が良い』と言っていました」
「ふん。ガキが生意気抜かしやがって」
 言いながらもデューラは酷く機嫌が良さそうだ。

「それからイオは、主任の
『威風堂々とした態度や自信に溢れた言動が良いと思う』と言っていました」
「ほう、まぁあのガキから見たら俺は憧れの対象だろうが」
 言いながら椅子の上で腕を組み、自慢げにそっくり返る。今にも椅子から転げ落ちてしまいそうだ。

「さらにヴァルイーダは、
『発想力が素晴らしい』と絶賛していました。『誰も思いも付かないような、独創的なアイディアに溢れている』と」
「はっ、たまにはあいつも殊勝なことを抜かすんじゃねぇか」
 益々嬉しそうにデューラは表情を緩める。一方ジャーヴィーは後ろで声を殺して笑っていた。

「そして最後に」
「誰だ」
「ガイズが言っていましたが――」
「!!」
 ガイズ、の名前が出た瞬間、デューラの身体がばね仕掛けの人形のように椅子の上で跳ね上がる。そのままシルヴェスに食らいつかんばかりの勢いで、デューラは机に身を乗り出した。

「…何だって…?」
「ガイズは」
「ああ」
「主任の」
「ああ」
『一途なところが好きv』って言ってました」
「………っ!!」

 全部が嘘なわけではない。全くのウソはついていない。シルヴェスは自分にそう言い聞かせる。
 しつこいってのは、裏を返せば一途だってことだ。それは一つの立派な美点に違いないだろう。
 …まぁ、ガイズがその美点をスキか…という凄く重要な一点についてのみ、シルヴェスは事実と異なる事を伝えたわけだが。

「…いかがですか?」
 デューラは、机に手をつき、打ち震えていた。泣いているようにも見えたが、垣間見える口元が不気味に緩んでいる。
「ふふ……それを知ったのならば、もう俺に怖いものはねぇ…!」
「え?」
 ゴゴゴ、と地響きが聞こえた気がした。ゆっくりと顔を上げる、デューラの顔は何やら不穏な色のオーラに包まれ輝いている。

「いくらアタックしてもちっとも振り向きゃしねぇから、俺のアプローチは間違ってるのかと悩みもしたが――ちっ、ただ単に照れていただけかよ。ったく、『自分のいいところを見詰め直す』なんて、無駄なことをしちまったぜ。『一途な俺が好きv』っつってんなら――もうこんな本はいらねぇ!!」
「主任!?」
 ばさ、と投げられた本が宙を舞う。その拍子に帯が外れ――二人の部下に、その題名の全てがはっきりと見えた。



「成功自己分析・自己PR〜自分の「メリット」がすぐわかる・
これで気になるあの子のハートをGETだぜ!!



 …人が自己をPRする相手。それは就職先だけに限らない。気になって仕方ない愛しいあの子に対しても同様、なわけで――つまり。

 盛大に勘違いしてた事実に二人は青褪めるが、時既に遅し。止める間もなく彼らの上司は、ドアをブチ壊す勢いの超高速スキップで飛び出して行った。


「…………」
 確かにデューラは一途な男である。だが彼の思い人がその点を気に入ってるかと言われれば、答えは否、なわけで。上手くいくわけがない。




「俺…主任に謝っていいか139番に謝っていいか分かんねぇ…」
 ジャーヴィーが呟くと俯いた。その肩は罪の重さに震えていた。

「取りあえず、速攻で次の就職先を探す必要があるな。私達の
 床に落ちた本を拾い上げ、ぱらぱらと捲りつつシルヴェスは相棒に問いかけた。



「ちなみにジャーヴィー、私のいい所ってどこだと思う?」
…見切りと切り替えの早いところじゃね…?



 とんでもない爆弾を投下しておきながらさっさと現場からの逃走を図る相棒に、空恐ろしいものを感じつつもジャーヴィーは答えた。




















END



















ちょっと前。就職活動中に思いついたネタです。
こうして見てみたら、主任にもいいところ沢山あるんじゃない!!







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