20XX 08





不本意ながら本日より一ヶ月間、総統の観察日記(仮称)を付けることとなった。
総統がおっしゃられるには、本国を広く世界に発信する為、ニホン帝国政府公認HPを立ち上げることにした、らしい。
この中で、総統の日々の仕事を紹介するメルマガというものを発行することとしたらしく、その資料を私に作れ、とおっしゃった。
ここで私が、したらしいと表現しなければならないのは、私がそれを知ったのは、全て終わった後であったからだ。

取り合えず、総統の本日のおやつを没収することとする。


0801

総統は睫毛の反り返り方が気に入らないと公務を放棄した。

2、3本下睫毛を引き抜いてやった。


0802

気温が28度を超えたので、官庁でも冷房を入れることとした。
エアコンの風に直接当たると、気分が悪くなりますよと忠告したにも関わらず、
「ふん、これしきのことで負けるなど、俺にあってはならんのだ」
と存分に全身で風を感じていらした総統が、夕食を拒否する。



0803

探していた本が見つかり、とても機嫌がいい総統。

「アキラ、見てみろ」というので
「探したのは私です」とツッコミをいれる。
「ふん、後から見せろといっても貴様には見せてやらんぞ」と小生意気な口を聞かれるので、
「私は世界の園芸全集などには興味がございませんからまったく問題ありません」
と正直に答えると、睨まれた。
指紋をつけないように手袋をしたままそっと開いた瞬間、古くなった糊付けが剥がれた。

半泣きになっていたのを、見ないことにして退出する。


0804


午後の移動中、唐突に総統が「俺はPRG風にいうと、どのレベルだ」などとまたワケの分からないことを言い始める。
「Lv.99ではないでしょうか」そう答えると、「そうか……」と詰まらなそうに溜息を吐く


0805

総統が勇者になる、と口走りながら朝から素振りを始めている。


0806

無駄なうさぎ跳びで腰を痛めた総統の腰の冷却シートを変えた:回数3回


0807

「どうのけんときのたてが欲しい」と総統がおっしゃられた。
電波も過ぎる、唐突な言葉に、取り合えず手元にあったペーパーナイフと文鎮を手渡すとむっつりと黙り込んでしまう。
「総統」と呼びかけても返事はない。
「総統はどれほど頑張っても、王であらせられるので勇者にはなれません」続けて口にすると
「ふん、知っている」とふて腐れながら吐き捨られた。

取り合えず、総統の本日のおやつを没収することとする。
夜になると、竹が届いた

「どうされたのですか」と尋ねると
「旧七夕だ」とそっけなく返された。
そういえば、観葉植物に飾り付けられていた事を思い出す。満足げな笑みを浮かべる総統の顔を見ていると、こちらまで嬉しくなる気がした。
短冊に『勇者の剣がほしい』と達筆な文字を発見するまでは。




0808

蚊と無益な死闘を繰り広げる総統のベッドに蚊帳をかける。


0809

先日の、勇者になりたいの一件は、どうやら大戦前から続く、某シリーズの最新作の情報をネットで得たかららしい。
頑張れば、目からビームが出るなどと夢物語をされる方の思考回路にはついていくことが出来ない


0810

午前の会議前、手持ち資料を確認している総統が、ふと「カレーが食べたい」と口にされたので、夕食はカレーにした。

0811

朝からそわそわとしている総統が、三度目にプリンを掬い落としたとき声を掛ける。
「どうされたのですか」と尋ねると「ふん、貴様には関係ない」などと突っぱねるので、
「今後のプリンは全て醤油をかけてお出ししてもよろしいということですね」と問うと
「まて、そのようなこと誰がいった」と慌てた様子で止めに掛かる
「それで、どうされたのですか」と再び問えば

「今夜の怪奇すぺしゃ「もういいです」


0812

昨晩総統の添い寝をしたので腕が痛い


0813

昼休みに、キュウリに割り箸を刺すことに熱中している総統が、二匹目に取り組んだ時、名前を呼ばれた。
「アキラ」「なんですか、総統」
「貴様は帰ってきて欲しい相手がいるか」と問われたので
「いません」と思ったまま答える。
総統は無言でキュウリに割り箸を刺す作業を再開した。


0814

ウナギが安かったので、うな重を昼食に出すと、「こんなヘビを縦に裂いたようなものは食えん」とそっぽを向くので無理やり口の中に詰め込む。

0815

総統はカレーを食された。

0816

総統はカレーを食された。

0817

総統はカレーを食された。

0818

ようやく、毎日カレーという献立に疑問を持たれる。叱責されたので
「暑い時に熱いものを食べることによって発刊作用が促進され不要な物質が汗とともに流れ落ちると言われています。健康の為、そして総統のお肌の為です。」
と言ったら納得された。あと数日はこの作戦で行くこととする。

0819

時候商品が安くなっていたので公費で小児用プール(L)を購入する。早速総統に差し上げると、上機嫌でオフロ用ヒヨコを下さった。

0820

昨日購入したプールを流れるプールに改造しろという無理難題を押し付けられる。「嫌です」と断ったら職権を乱用された。
散水用スプリンクラーを突っ込んでやろうかと、若干頭を過ったが、無難に扇風機を水中に沈めることを提案した。

0821

小児用プール(L)と扇風機が壊れる

0822

外交官が、報告がてら総統にヘラクレスリッキーブルーと呼ばれるカブトムシを献上した。
部下の手前、無表情を通しているが、足取りが明らかに軽く、むかついたのでローキックをしておく。
「何をする」と聞かれたので「何のことですか」と12回程問答を繰り返したら、怪奇現象と勘違いされた。

0823

総統が、カブトムシにアキラと名付ける。
「やめてください、セクシャルハラスメントで訴えますよ」と口にすると、鼻で笑った後
「貴様に口出しされるいわれはない」とのたまった。


取り合えず、今日のオヤツをパンの耳に変更する。


0824

アキラ(カブトムシ)が死んだ。

0825

喪中だと言って、総統が部屋から出てこない。本日は給料日だ。
部隊長以上役職についているものは、総統から直接明細書を貰うことが慣例となっている。

「総統、女神気取りですか、あけて下さい」
「……」
「裸で踊りますよ、総統」
「……」
「シキ様」
「……」
「実力行使でよろしいのですね」

ドアを蹴破ると、とても人前に出せそうになかったので、影武者で代行した。

0826

執務室に置いてある観葉植物の根元に新たな墓標が加わった。
前回の夏祭りで釣り上げた金魚にもアキラと名付けていたので、私に対する無言の圧力のようでやや不快である。

0827

午前の公務が予定より早く終わったので、三時のデザートのリクエストを承りますと申し上げると。
「何のトラップだ」と失礼な態度を取るので、昼食の天婦羅蕎麦を素蕎麦に変えることとした。
「アキラ、テンカスのような物体が浮いているぞ」というので
「途中でテンカスが切れてしまったのでしょう。よくあることです。」と納得させる。

0828

毎年恒例の24時間テレビを食い入るように見ていた総統は、
唐突にテーブルの上の某キャラクター貯金箱(一回いれるごとに鳴き声を上げる電子鼠型のモノだ)を手に取ると
「こんな時こそ、俺が最前線に立たなくてどうする」と武道館に走ろうとするので延髄に手刀を叩き込んだ。


0829


「今年はまだスイカを食べていないぞ」と総統がおっしゃられたので、スイカバーを大量に購入する。


0830

明後日から、軍事演習が始まる。
よってその前に、完了すべき公務が、未だ半分以上ある。
どういうことか、総統に問いただしてみると

「ふん、夏休みの宿題とは、31日に必死でやるのが、夏の風物詩というものだ」

と胸を張られた。
どこの誰に夏休みがあったのか問いただしたい。

とりあえず、今日のおやつは羊羹から玉子ボーロに格下げをした。


0831


「アキラ」
「はい」
「事実を事実として書きすぎだ」
「ですが、事実ですので」
「まったく、これではただ一ヶ月の生態を面白みなく垂れ流すだけだ。リピーターが付かないブログのような記事になるぞ」
「ええ、ですから私は、総統の料理スキルを毎号分かりやすいレシピとともに民衆に見せ付けるのが適切かと思います」
「そうか」
「ええ、間違いありません」
「なるほど、覚えておこう」
「ありがとうございます。総統」
















総っ統――――!(叫び)



こちらは当サイトからリンクを貼らせていただいております、『ムオングラフ』のロジ様から頂戴いたしました。
ご覧下さいこれこそがニホン帝国総統の真のお姿でございますよ皆様!
8/1から8/31までノンストップで愛くるしい総統!
そして苦労性ながら
ここぞという時のお仕置きにかけては容赦のない腹心、アキラさん!
楽しそうです。苦労承知でこの政府関係者になりたいです。嗚呼。

31日分を一気に読みきってしまうのが勿体無くて、ちまちまちまちまと読み進めるつもりだったのですが、こんなステキ作品を途中で我慢するなんて忍耐力の足りない鳥呼にはとても出来ません。気付いたら31日までノンストップ読了でございました。
頂いた際のメールにも書かせていただいた気がするのですがこちらのSS、まるで一つ一つ種類の違う、綺麗なお菓子(プチケーキみたいな)が31個箱の中に詰められているのを見ているような感じがします。
ページを開くたびに、お菓子の箱を開けるあのドキドキ感が甦ってくるような。本当に、読むたびにしみじみと『いいなぁ…!』と打ち震えてしまいます。

書き始めてしまうと、ついつい1日から31日まで逐一感想を記してしまいそうなので(心底ウザイよ)自重しますが、
日々さりげなく
腹心からおやつをグレードダウンされている総統と、
初日から総統のアイデンティティーを2、3本引っこ抜いてしまった…なんて恐ろしい子!(白目)なアキラさんが大好きですv

ロジ様、こんなにステキな総統を頂きまして本当にどうもありがとうございました!








ロジ様のサイト、『ムオングラフ』様はこちらですv

今回の総統のような愛らしいお話も、上質の映画を思わせる連載小説も沢山。
咎狗好きは行かないと損をしますよ。そんなサイト様ですv












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