Ex.咎罪 昼だというのに薄暗い廊下。両脇を覆う重厚な石造りの壁が、一層の圧迫感を醸し出す。 目の前を歩く赤毛の男に、枷で両腕を拘束されたアキラは低く押し殺した声で問いかけた。 「…どこに連れて行く気だ」 「…お前、聞いていなかったのか?罪状は”殺人”。判決は”終身刑”――お前はこれから一生、この刑務所の中で暮らすんだよ」 「…俺はやってない」 何度目かの言葉を低く繰り返す。 聞くものの鼓膜に速攻で低音火傷を負わせそうなほど、冷たい声。 一見冷静に見えつつも、このクールビューティーは己への不当な扱いに対し、怒りに怒り狂っていた。それが全く顔に表れないのは、単に顔の表情筋が人よりやや固いがためである。 背後を歩く『新入り囚人』の不穏な様に流石に気付いたのか、赤毛の看守が恐々振り返った。 振り返った先の有様は、正にツンドラブリザード。灰碧の目は氷の女王もかくやという冷たさで此方を見据えている。 怖い。ハッキリ言って物凄く怖い。 今度の新入りって、こんなに怖かったろうか…という疑問が、ふと頭を掠める。 (もしかして別人を収容しちまったんじゃねぇのか?) (大体今度の新入りって、ここまでデカくなかった気が…でも資料にもちゃんと身長170cmって書いてあるしなぁ…) 赤毛看守は、正直ビビっていた。同じ赤毛とは言え、どこぞの隻腕女軍人ほどの胆力は生憎と彼は持ち合わせていない。 「そ…そんな目で見るんじゃねぇって…”やってない”ったってしょうがねぇだろ…裁判で決まっちまったモンは…」 「だから、俺はやってない!あのメガネにハメられたんだ!」 「…そーかそーか…悪いメガネはどの世界にも居るもんなんだな…。まぁ、そこまで言うなら再審ってやつもあるし。そっちに賭けてみたらどうだ?…尤も、服役中の身じゃ、よっぽどの協力者を得ない限り中々難しいだろうが…」 「…難しい…そうか」 そう呟くと新入りは、先ほどの怒気をすっと消して俯く。 いきなり萎んでしまった相手に、慌てて赤毛は元気付けるように彼の肩を揺さぶった。乱暴に見えて、根本的なところではお人よしなのが彼の特徴だ。 「ま、まぁそこまで落ち込むこともねぇんじゃねぇのか!?最悪殺されることだけはな……」 「それなら俺は」 「…ん?」 「お前を倒して、ここから逃げる」 赤毛の看守が最後に見た光景は。 戒められたままの両拳を淡々と振り下ろす、クールビューティーの姿だった。 そして執務室前を通りかかった灰髪看守は、相棒が車に轢かれたカエルのように廊下にうつぶせに倒れこんでいるのを見つけた。 慌てて抱え起こすと、紅茶色の目がゆるゆる開く。頭のてっぺんに、何故か特大のたんこぶが出来ている。 「さ…流石腐っても元Bl@sterチャンピオン…素手でも強ぇ……」 「ジャーヴィーッ!?何があった!しっかりしろ、ジャーヴィー!!」 「か…母ちゃんに伝えてくれ、シルヴェス…アンタの息子は、職務を全うして天に召されたと…!」 「何言ってんだジャーヴィー!しっかりしろ、ジャーヴィー!!」 相棒を此方に繋ぎとめようと声を張り上げた矢先、廊下の騒ぎに気付いたのか、執務室のドアが開いた。 そして中から現れたのは、長身を紺の看守服に包んだ『二人』の男。 「あっれー?俺のネコちゃんはまァだ来ねぇのかなァー?」 「…早くしろ。雑魚の分際で何時まで俺を待たせる気だ」 ソレを見たジャーヴィーの顔から、みるみるうちに血の気が引いて行く。 「…何で二人も居るんだよ」 「…お互いこのキャスティングを、絶対に譲らなかったらしくて…」 囁きあう看守二人に焦れたのか、ばさばさに痛んだ金髪の男が地団太を踏む。 「…なァ!!俺のねこちゃんはどーこォー!?今から身体検査すんだからよォー!!」 その傍らの黒髪の男は、血のような赤目を眇めて二人を睥睨した。 「貴様ら…まさか逃がしたのではないだろうな…」 「えェー!?マジでェー!?…だったらテメェら…ゆるさねェ…」 鉤爪と、日本刀が二人の看守にじりじり迫る。 (主任…早く帰ってきてくださいーっ!!) 抱き合って震えながら、哀れな看守二人は滅多に無いであろう願いを叫んだ。 遠く離れた、トシマの空の下に向かって。 ************************************ 咎狗in冤罪。 何も始まってない。というか収容されてすらいない。 クールビューティーは強いのです。実は。 ************************************ Ex.冤罪の血 ガイズの目の前のガラスを挟んで、信じがたいほどに綺麗な女が、信じがたいほど立派なモミアゲを持った男を従えて立っている。 そして彼女の口から告げられた内容はこれまた、信じがたい内容のものだった。 「お前の殺人罪――容疑が晴れる可能性はほぼゼロに等しい」 「…………」 「…だが」 薄い唇が、すっと真横に引かれる。 「こちらが提示する条件を飲めば、ここから出してやらなくもない」 「…本当か!」 途端、ガイズが喜色も露に立ち上がった。予想通り――いや、予想以上に素直なガイズの反応に、赤毛の女は唇を吊り上げる。 「トシマ…という街のことは知っているな?」 「…ごめん。知らない」 きゅ、とガイズは申し訳無さそうに首を竦める。いきなり話の腰を折られて、エマは軽く眉を顰めた。 「…その分では、イグラの事も当然知るまいな」 黙って頷く。は、と赤毛の美女はため息をついた。 そして手元の資料とガイズの顔をマジマジと見比べる。 「国民番号…11298-TM-3099…間違いはないはずだが…」 「エマ。俺は反対だ」 隣で、女の影のように付き従っていたモミアゲ(仮名)が、このとき初めて口を開いた。 「このような子供をトシマに送り込んで…イグラで勝ち残れるわけが無い!」 「『イグラ』?」 「トシマという街を統べる、一大麻薬組織ヴィスキオ。そのトップの座を巡る命がけのバトルゲームの事だ」 「まさか…俺にそれに…」 「参加して、トップであるイル・レを倒してもらう。…それが、お前をここから出してやるための条件だ」 「無茶だ、エマ!こんな小さい子を…!」 必死に横から言い募る男を、エマと呼ばれた女は冷静に振り返る。 (ちなみに『小さいとか言うなよ…』という当人の苦情は当然のように無視されている) 「…自己申告身長は170cmだが?」 「…そうだな。でも所詮は自己申告身長だしな…」 「…悪かったな、自己申告身長で」 ガイズが暗く呟いた。 「しかし…こんな幼い子がトシマで戦いきれるとは俺にはとても思えない…」 「『幼い』って言うな」 「安心しろ、グエン。元々の主人公とて、実は肝心のところで意外と戦ってない。大事なのは、腕力とは別次元のトコロにある何かだ」 (言っちゃった…この人…さらりと禁句言っちゃったよ!!) サァァっと青褪めるグエン。訳が分からずきょとんと首を傾げるガイズ。 そんな二人の目の前で、エマは笑んだ。それはもう、魅力的に。 「…さぁ…どうする?」 対するガイズの答えは、もう既に決まっていた。 「ここが…トシマか…」 廃墟と化したビル。その間を極力用心しつつ、ガイズは進む。 「…って言っても…俺の力でどこまでいけるか…」 呟きつつ手の中のナイフを見やった。ちなみにそれは、昔軍事訓練を受けていたときに支給されたナイフ――などではなく、ガイズが冤罪で捕まった原因となった恨みのナイフだ。…ちなみに、銘は『犬殺し』。 「とにかく…先ずはタグ…集めるとこから始めないとな…」 きゅ、と唇を引き結んだ。一度腹を括ればあとの行動は早い。 油断していそうな相手を見つけて。勝負を挑んで。 負けない。負けるわけには、行かないのだ。 「あ……」 その時、コツコツという足音が聞こえた。ビルの壁に身を潜めて伺うと、無防備に路地裏に向かってすたすたと歩いていく後姿が見える。 月明かりに、相手が首から提げているタグのチェーンが一瞬キラリと光るのが見えた。 (決めた…アイツでいく…!) ガイズはしっかりとナイフを握り締めた。冷や汗で柄が滑りそうになる。 足音を潜め、黒コートの背中との距離を詰める。 気配に気付かれたのか、目の前の背中がふと歩みを止めた。そこへ、間髪居れずにガイズは飛び掛る。 「もら…ったぁぁ!」 「…甘いな」 「……!?」 ふわりと金色の前髪が靡いた。どこかで聞いたような声に、一瞬ガイズの動きが止まる。 間髪居れずに、みぞおちに打撃を叩き込まれた。衝撃を逃しきれず、吹っ飛ばされる。 自分を足蹴にしている男を見上げて。ガイズは驚愕に目を見開いた。 男が首から下げていたのは、イグラのタグ――ではなく、何故かロザリオで。 腰に差していたのは、日本刀――ではなく、何故か警棒で。 そして、その顔は。 咳き込むガイズの元に歩み寄ると、男はいきなり少年を横抱きに抱き上げる。 そして、ニィっと唇を歪ませた。酷く、満足げに。 「今日からお前の支配者は…この、俺だ…!」 「デュ……っ!」 「さぁ!下を脱いで足を開きやがれ!!」 「混ざってる!何か色々混ざってるよ!!」 ガイズの突っ込みなど気にも留めず、『金髪の』カリスマは高笑いと共に少年を抱えて走り去る。 ――後には、エマに託された通信機だけが虚しく転がっていた。 「…………」 「だから言ったのに……」 途切れた通信に、エマは無表情でイヤホンを毟り取る。 そら見たことか、というようにグエンが肩を竦めた。 ******************************************* ゲームとしてダメな終わり方。 っていうかカリスマ出るの早すぎ。明らかにカリスマEDしかない予感。 ********************************************* |
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