やさしさのいたみ










 足の先に、小石がある。
 容赦なく、蹴り飛ばす。
 …いつもはそんな事、しないのだけれども。



 蹴り飛ばされた小石は、乾いた音を立てて茂みの中に転がった。
 八つ当たりをほんの少し申し訳なく思ったりもしたのだけれど。
 仕方ない。今、自分の目の前に落ちていた事があの意思の罪だ。

 そう自己弁護して踵を返そうとした矢先、目線の先で茂みがガサガサと動いた。
「痛…」
「青樺…」
 眠っていたのだろうか。薄茶の髪には芝が目一杯くっついている。
 微かに赤くなった額を押さえながら、青樺は涙目で立ち上がった。
「朱緋真…俺、何かお前の気に障ること、したか…?」
 淋しげな声音に、固まっていた朱緋真ははっと我に返る。
「う…っわぁぁぁあっ!!ゴメン、青樺!!」
 そのまま押し倒す勢いで、朱緋真は青樺に飛びついた。



「…それで。何でそんなにイラついてたんだ。お前」
 ごめんごめん、という謝罪も一通り終わり。
 思い出したように青樺が問い掛ける。

「う…まだ…怒ってる…か?」
「…いや?でもお前がわけもなく八つ当たりするような奴じゃないって、俺知ってるから」

 だから絶対に何か有るはずだと思った、と青樺は事も無げに口にする。
 そこまで信頼されている、という証をごく何気なく口にされて、幻術使いの少年は激しく照れた。

「…大した事じゃないんだけどさ…」
 だけど、思い出すだけで涙が滲むような暴言に、朱緋真は口篭もる。
「ん?」
「あの…三白眼高枝切りバサミが…」
「…ああ。煉邦?」
 …その説明で一発で理解した辺り、意外とこの少年も容赦の無い性格をしている。
「あいつに、何か言われたのか?」
 重ねて問われ、朱緋真はもごもごと言葉を発した。

 曰く。


「『このデコっぱちが』って言われた…」


 それを聞いた途端、青樺は堪えきれず噴出した。
「ちょ…!青樺!笑うなよ!」
「ご、ごめんな…!でもお前ら、そんなことでケンカしてたのか?」
「うっさい!」
 頬を膨らませてそっぽを向いてしまった朱緋真だったが、程なくちら、と青樺を振り返るとぽつりと口を開く。
「なぁ…せぇか…俺、別に『デコっぱち』なんかじゃねぇよな…?」
「…朱緋真」
 意外にもしおらしい朱緋真の声に、青樺が笑うのを止めた。
 見返してくるその眼差し一杯に、『悪い事をしたな…』、という後悔が透けて見える。

(ああ、こいつのこういう所、好きだ)

 じわ、と胸の奥から溢れてくる感情に、朱緋真は目を細めた。

「わ…笑ったりして…悪かった」
 おろおろと謝る青樺に、今度は少しの意地悪さをもってもう一度問い掛ける。
「じゃあ、俺…デコっぱちじゃない?」
「あ…当たり前だろう!?煉邦の言う事なんて、気にするなよ!」
 そう言うと共に、青樺は朱緋真の前髪をふわりと掻き揚げた。
 トク、と心臓が脈打つ。
「…ほら。どこにも可笑しなトコなんて」
「……せいか」

 ああ。この体勢。

(…口吻けを待ってるみたいだ)

 薄茶の目の位置が、近い。
 前髪を梳き上げた指の感触が、心地いい。
 そのまま、目を閉じてしまいたくなる。
 そして唇に降りてくる熱を、待ち望んで――

(…何考えてるんだ)

 不埒な思いを首を振って振り払った矢先。
 目の前の青樺の。



 微妙な表情に気付いた。



「…せぇか…?」
「あ…朱緋…」
「…何、何なの。そのびみょ−なカオは」
「な…別にそんな事は…」
 言いながらも青樺は、ぎくしゃくと顔を逸らす。
 …嘘がつけない、彼ならではの行動だ。

「…こっち向けよ、青樺!『デコっぱち』なんだろ…?やっぱ『デコっぱち』なんだろ…!?俺のデコ!」
「そ、そんな事はない!」
「だったら目を逸らすなよ!直視できないほど痛々しいのかよ、俺のデコはぁぁっ!!」
「だ、大丈夫だ、朱緋真!ほら、こうして前髪を元に戻せば…ほ−ら、元通りv」
「『ほ−ら、元通りv』じゃないよ!何なんだよ、その却って人の傷口に塩擦り込むような微妙なフォローは!?」

 『やっぱ俺は『デコっぱち』なんだー!と、うわーんと泣きじゃくる朱緋真に当然ながら青樺は焦った。

「で、デコっぱちじゃない!デコっぱちじゃないぞ、朱緋真!そうだな…むしろお前は、『おでこちゃん』って感じだ!」
「可愛く言ったって大差ねぇよ!何のフォローにもなってねぇし!」
「朱緋…」
 泣かれて困った青樺は、おずおずと朱緋真の髪を梳く。
「お前が…お前がどれだけデコっぱちでも…俺はお前の事大切に思ってるから…だから…」

 泣かないでくれ。

 …不器用な青樺の、実直な精一杯の告白。
 普段の朱緋真だったら、この一言だけで狂喜乱舞していただろう。

 でも。それでも。
 …嗚呼。『デコっぱち』の部分は否定してくれないのね。
 …何て酷いんでしょう。アナタ。


「青樺…痛いよ…」


 あなたの やさしさ が いたいの です


 青樺曰く『おでこちゃん』な自慢の額を押さえて、朱緋真は力無く蹲った。

















END
















某サイト様のTOPにいらっしゃった朱緋真が可愛くて。おでこに萌え倒して書いたSS。
なのに、何だか可哀相な話になった(哀)
でもあの額は、朱緋の魅力の一つだと思う。
青樺はあのデコにちゅーするのが好きだといいと思う(妄想)。








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