6.


 敢えて部屋に入るとき、ノックはしなかった。
 漸く訪れた彼の人の眠りを、少しでも長く守っていてやりたかったから。

 だが、シルヴェスのそんな小さな気遣いは無駄に終わったようだった。
 カチャリとごく小さな音を立ててドアを開いただけで、部屋の主はゆっくりと伏せていた瞳を開く。

「…シルヴェスか」
「…すみません、主任。起こしてしまいましたか」

 どれほど注意を払っても、この部屋に侵入した異物にデューラは敏感に気付く。
 所詮自分も今の彼にとっては受け入れ難い異物に過ぎないのだと、小さくシルヴェスは自嘲した。


 唯一彼に異物とみなされない相手は。
 …彼の眠りを守る事の出来たたった一人の相手は。

 ――もう、二度と此処に現れる事は無い。


 気だるげに目を薄っすらと開いたデューラは、床に散乱した書類を甲斐甲斐しく集めるシルヴェスを見るともなしに眺めていた。
 その僅かに笑みを含んだ目元が、憔悴し切った顔の中にありながら何処か幸せそうに見えて。
 思わず、シルヴェスは口を開いていた。


「――何だか今日は、嬉しそうですね。主任」
「…そうか?」
 
 悪戯っぽく見上げてくる眼差しに、シルヴェスも笑みを浮かべてゆっくりと頷いてみせる。

「ええ。…何かいい事でも、ありましたか?」
「ああ」

 何を思い出したのかデューラは、幸せそうに目を細める。




























「――『いい夢』を、見ていたんだ」




























「――――――――」
 シルヴェスの笑みが、一瞬だけ強張った。

 彼に伝えることが出来たら、どれだけ良いだろう。
 それは『夢』なんかではないのだと。
 貴方が求めて止まない少年はつい先程まで、確かにこの部屋に居たのだと。



 だがシルヴェスは口を開く代わりに、指先をそっと執務机の上へと伸ばした。
 そして机の上に転がっていた『それ』を、デューラの目から隠すようにそっと手の中に握りこむ。


 それは、ガイズの落とした一粒のキャンディ。
 パステルカラァの、甘い甘い――夢の、残滓。


 彼が確かに此処に居たという証を、手の中で粉々に握り潰して。
 振り返ったシルヴェスは、静かにデューラに微笑みかけた。



「…そうですか」





























「――それは、良かったですね」

























END













…無駄に長かったですね。
初めてSSを数ページに分けるという試みに挑戦し。
ものの見事に、失敗。
ガイズのたった三文字(四文字かも)の台詞が書きたいだけだったのに。

ちなみに、以下はこのSSの分かり易いマサル的ダイジェスト。
気になる方は反転してどうぞ。

シル「ま…毎朝…主任のために味噌汁を作ってくれないか!?」
ガイ「断る
ジャー「(成る程。主任がフラれ『た』確率100%だな!)」
シル「待ってくれ!その断る理由を400字以内で聞かせてくれ!」
ガイ「何でって…えーっと…『めんどい』
シル「4文字ー!?」(ガビーン)


…あらら6ページが6行で纏まっちゃったよ(哀)。


















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