主任、新しい趣味を見つけたらしいです。







 デューラの趣味G






 のろのろと身体を起こせば、全身がきしきしと悲鳴を上げた。

「……痛ぅ……」
 思わず苦鳴が俺の喉から漏れる。『痛くなんか無い』って必死に自分の身体に言い聞かせたけれど、残念ながらその痛みは自己暗示で誤魔化せるような生易しいものじゃ無かった。

 俺をこんな状態にした張本人は、と言えば傍らの壁に背を預けて、涼しい顔で煙草を吸っている。ボロボロの俺とは対照的に妙にスッキリとした表情で、率直に言って殴ってやりたいくらいムカついた。

 出来るわけ無いけれど。

 デューラを殴る想像は、あくまで想像の中だけに留めて、とっととこんな所からは退散し様と身支度を急ぐ。身体は相変わらず辛いけれど、もう一番辛い時間は過ぎ去ったのだから、と自分を慰めて。
 だけど床に放り出された服を身につけようと広げた所で、懸命に絞り出した元気もスッと萎えてしまった。
 いつもより服を脱ぐのが遅かったのが悪かったんだろうか。苛立ったデューラに剥ぎ取られた服は、布地も脆くなっていた所為か服としての用をもはや成さないくらい、ズタズタになってしまっていた。

 …ハッキリ言って、ある意味これは身体を傷つけられるよりヘコむかも知れない。

 最近は、随分と責められる事にも慣れた。
 じっと身を竦めていれば、苦痛の時間はやがて過ぎ去っていく。
 身体につけられた傷だって、放っておけば自然と治る。

 だけど破れた服は放っておいても直らない。

 自分でもちょっと可笑しいな、と思った。
 身体の傷より、服の破れの方が辛いなんて。

 それでも無理は無いのかもしれない。何せ俺は繕い物が下手だから、持っている殆どの服は擦り切れ破れてしまっていたし。
 今日着ていたこの服は、その中でも――奇跡的に、傷みの少ないものだったんだ。

 両肩のところを摘み、べろっと持ち上げてみる。
 袖が外れているのはまだしも、胸の処が左右に大きく引き裂けていてとても着られるような状態じゃ無い。

(前押さえて帰るしかないか…)

 暗い気持ちで思ったとき、ふと困った事に気付いた。
(ヤバ…っ!最近湿気多くて、洗濯した服乾いて無い…!) 
 ひやっと背筋を嫌な汗が伝う。
 本当は今日着ていたこの服を明日も着ようと思っていた。こんな事が無ければ。
(どうすんだよ、明日…)
 着る服が無いなんて、冗談じゃない。
 だけど何度見返しても、破れてしまった服は元に戻らなかったし、器用なエバやイオですら修復は無理そうだった。
(明日一日上半身裸とか…?うわ、風邪ひきそ…)
 それ以前に不穏なことを考えてる奴らが、黙っていないだろう。
 しつこく迫ってくるのを、根気強く追っ払って追っ払って。やっと最近平和になってきたというのに。

 …かといって濡れたままの服に袖を通すのも問題だった。
 今この刑務所内で悪質な風邪が蔓延しているのだ。…一人、死者が出たとも聞いた。
 タダでさえデューラに責め立てられてフラフラの身体。
 少しでも負担になるようなことは、避けたかった。
(何とか縫い合わせるしか…ないよな…)
 暗澹とした思いに、自然重苦しい溜息が漏れる。


「…どうした。服を着ないのか?」
「…………っ!!」

 不意に、背後から突然声を掛けられて、びくんと背中が跳ねた。
(デューラ…まだ、居たのか…)
 もうとっくに居なくなっていたと思っていたのに。相変わらず奴は壁に背を預け、ニヤニヤしながら此方を見ている。

「終わってもまだ服を着ないってことは…もう一回して欲しいって事か…?」
(んなわけあるかぁぁぁぁっ!!)
 ココロの中で力一杯叫んだが、口から出たのは酷く弱々しい否定の言葉だけだった。
「いえ…そんな…」
「なら如何してだ?」
「…………」
 俺が無言で視線を向けた先、床に広がったままの服にふとデューラも目を向けた。
「…酷い有様だな」
(やったのはお前だろうがぁぁぁっ!!)
 とココロの中で力一杯叫ぶが(以下略)。

「さっさと独房に帰って、服を着て来い…そんな格好で何時までも居たら、別の奴らに犯られちまうぞ?」
 こんな跡付けて、と首筋をすっと指でなぞられる。その感触に俺は目を伏せてデューラから顔を背けた。
「っつっても…無いんだよ…服」
「あぁ?」
 小声で呟いた俺の言葉を、だがデューラは敏感に聞きとがめたようだった。細い眉が、顰められている。
「お前。無いのか、服。…洗濯をサボりでもしたんだろう」
(洗濯しちまったから、着る服が無いんだよ!)
 きぃっと思わず睨みつけてしまう。その視線に大体の事は察したのか、
「そうか…最近は天気が…」
 とデューラはぶつぶつと独り言を言った。

「それで?着る服無しでお前、如何する気だ?」
「如何するって…何とか修繕して…」
「あの不器用さでか?」
 いつも指に針刺してるくせに、出来るのか?と破れた服を摘み上げてデューラが嘲う。
「う…それか…濡れた服そのまま着るか、それとも…」

明日は上半身裸で一日過ごすか…

 ぴく。とそれを聞いたデューラの肩が震えた。
「あ、それより、イオとかエバとか、ヴァルイーダ辺りに服貸してもらえばいいんじゃん!」
 ぱっと名案が思いついて、俺はデューラの前だと言うのにぱちんと指を鳴らした。
 そうだ。エバ辺りじゃでかすぎるだろうけど、イオの服ならきっとぴったりだろうし、無理すればヴァルイーダのだって着られるだろう。
 だがそれを聞いたデューラの肩がまた、ぴく、ぴくと震えた。
 それに気付かない俺は、そうと決まればvといそいそと破れた服に袖を通し、裂けた胸元を押さえてその場から立ち去ろうとする。

 がし。と腕を掴まれたのは、その時だった。

「……………………あの」
 俺を掴んだ腕の主は、当然デューラで。
 放して欲しいなー、という希望を込めてその顔を見上げるが、腕が緩む気配は無い。
 怖いぐらいに真剣な顔で此方を見下ろすデューラに、つぅっと背筋を冷や汗が伝った。
「あの…手を…」
 放して、と続けようとしたとき、唐突に腕を強く引かれた。
「うわっ!!」
 転びそうになって慌てて踏みとどまる。そこを更に容赦なく引き摺られ、またバランスを崩しそうになった。
「ちょ…っ!何!?」
「来い」
 言葉少なに返したデューラは、ぐいぐいと俺の手を引いて歩き出す。
 歩幅がまるで違うから、必然的に俺は小走りでついて行かなくてはならない羽目になった。
 




「ここって…」
 行為の後で辛い身体を無理矢理引き摺り回され。漸く辿り付いた場所に、俺の頬が引き攣る。
 デューラがわき目も振らず向かった先は――奴の、私室だった。
「入れ」
 淡々と命令されては、従うほかに術が無い。
 嫌だ嫌だと駄々をこねる身体を宥めて、部屋へと足を踏み入れた。  

(何させる気なんだよ…!この変態看守がぁぁっ…!)
 全身を嫌悪感でガチガチに強張らせて、次のデューラの行動を待つ。
「そこに座れ」
 ベッドを指差されて、一瞬躊躇った。が、ちら、と此方を見遣る眼差しに、しぶしぶ白いシーツを掛けられたベッドに腰を下ろす。
 俺が大人しくベッドに座ったのを確認すると、デューラは此方に背を向けて、壁に作り付けの大きな戸棚を開けた。

(何……)
 そのバタン、という音にも過敏に身体は反応する。一瞬逃げようかとベッドから立ち上がろうとしたその時だった。ふわりと柔らかい白いものが、足の上に引き止めるように落ちてきたのは。
「こ…コレ…」
 さらさらと臑の辺りをくすぐるそれを、汚さないように注意深く摘み上げる。
 それは、触れるのが躊躇われるくらい真っ白な、一枚のシャツだった。

(デューラの……服…じゃないか?コレ…)
 その服を摘み上げたままで呆然としている俺の足元に、また一枚、二枚とふわふわと服が降ってくる。
 その服の降ってくる先に目を向けると、戸棚――恐らく、クローゼットなんだろう――に顔を突っ込んだデューラが、あれでもない、これでもないと独り言を言いながら、クローゼットの中の服を次々と引っ張り出しては床に放り投げていた。
 さっきまで一応片付いていた筈の部屋の床は、この数分間であっという間に広がった、大量の服に覆われてしまっている。

 その内、お目当ての服を見つけたのか、デューラは薄青のシャツを一枚手にとって、ベッドの上の俺に近づいてきた。自然、身体が緊張する。
「…………………」
 だが。
 デューラはそのシャツを俺の身体にちょっと当てると、首を振ってぽい、とそのシャツを床に投げ捨て、再びクローゼット探索に戻っていった。
(もしかして)

 アイツ、俺に自分の服を着せるつもりなのか?

 不吉な予感に思い至って、ぶんぶんと首を振った。
 まさか。あのデューラがそんな親切心を出すわけがない。
 だけど、それが親切心から来るものじゃなかったら…?
 俺に無理矢理服を貸し出して、『俺の服を汚した』とか言いがかり付ける気なんじゃ…?
 スッと血の気が下がった。
 『いいです』なんて断ったら、絶対にデューラは怒る。
 だけど。

「こんな服…汚さないでここで生活出来るわけねぇよなぁ…」
 ぼやいて足元に積みあがった服の一枚を広げてみる。滑らかな質感のそれは、シルクだろうか。
「一日で破れちまうって…こんなの」
 そっとシルクのシャツを床に落とし、今度は綿素材らしいシャツを摘んでみた。
 だがそのシャツも俺の知ってる綿素材とは大きく違い、透けるような薄手で独特の光沢を放っている。
 こっちのセーターは…何の毛糸を使っているのだろう?俺が着ていたのに比べて信じがたい位に軽いし、柔らかい。
 あっちのジャケットは形こそシンプルなものだが、いかにも高そう、というのがしっかりした作りや素材などからちょっと触っただけで推測出来た。

(困った…)
 はぁ、と溜息をついたところで、またデューラが別の服を手に持ってこっちにやって来る。
 先程と同様にまたその服を俺の身体に当て――やっぱり、どこか満足行かなかったのか首を振りながら再びクローゼットに戻って行った。
 しかし、出るわ出るわ。
 あのクローゼットの中身は何処に繋がってるんだよ、とツッコミを入れたくなるくらい次々と中から服が溢れ出して来る。
 そしてどれも高そうな服なのに、持ち主は全然それに頓着していないのか床にポイポイとゴミのように放り出して行っていて。汚さないのかと、人事ながら見ていて冷や冷やした。

 と。

「――――――――」
 不意に、クローゼットをごそごそと漁っていたデューラが動きを止めた。
 そしてその唇がニィっと吊り上がる。
(何…?何見つけたんだよ、コイツ…!?)
 その笑顔にゾク、と鳥肌が立った。あの笑顔をデューラが浮かべるのは、大抵碌でも無いことを思いついた時のサインだ。
 くつくつとデューラが何を想像したのか、喉の奥で低く笑う。
 ――俺の背筋に、戦慄が走った。

 怖い。

「――おい」
「は…はい」
「こっちに来い」
「――はい…」

 心の底から、行きたくない。

 でも行かなければきっと殴られる…!

 床に散乱した服を踏まないように気をつけつつ、俺はデューラの傍までのろのろと向かった。

「下を脱げ」
「――はい?」
 当然のように告げられた命令に、思わず間抜けな声が漏れる。
(下は…別に破れてねぇだろ!?)
 キッと睨みつけても、デューラは平然とした表情で。それどころか俺のサスペンダーをぱちりと手早く外してしまった。
「ほら。着替えられないなら、俺がやってやるぞ?」
「ちょ…ちょっと、待っ…!」
 慌ててその手を押さえようとするが、もう遅い。
 元々大きめでサスペンダーを外された時点でずり落ちかかっていたズボンが、デューラの手によって素早くボタンを外され、引き下ろされる。
 上のシャツは破れて肌蹴ているし、下は下着こそ取られなかったものの、足を剥き出しにした格好で。半端に服を纏っているからこその羞恥心に俺は赤くなった。
 何をさせられるんだ、と上目遣いで相手を見遣れば、妙に楽しそうな顔でデューラは紺色のズボンを俺の足元に広げた。

「さ。足、上げろ」
「え…」
「早くしろ」
 急かされて、渋々足を上げる。その上げられた足に、デューラが手に持ったズボンを通した。
「あ…あの!」
 デューラの手で服を着せられて。いつもとは逆の手順が妙に恥ずかしくて、思わず俺は引き止めるような声を上げてしまう。まるで着替えも出来ないガキか、着せ替え人形にでもなったみたいだ。
「じ…自分で着られます…から!」
 別に厭らしいことをされているわけではないけれど。ただ只管に恥ずかしい。
 首を振って着せつける手を止めようとする俺に、デューラはニヤリと笑う。
「遠慮するな」

(してねぇよ…!)

 狼狽する俺とは対照的に、楽しげにデューラはズボンのファスナーを上げ、ボタンを留める。
 デューラはこの身長の割には細身の部類に入るだろうが――それでも、俺とのウエスト差はやっぱりあるのか、必然的にズボンもずり落ちかかって凄くみっともない格好になった。
 更に悔しい事に、足の長さが――これまた相当違うらしく、履かされたはいいものの、足元で随分余ってしまった裾がわだかまって、歩き出したら即座に転んでしまいそうだ。
 体格の差をこんなところでも見せ付けられたみたいで、俺は悔しさに唇を噛む。

「ほら、次は上だ」
「うわっ!」

 意識をデューラから外している間に、容赦の無い腕が破れ解れた俺のシャツをばさっと剥ぎ取った。
 そし上半身裸でいる俺に背を向けると、クローゼットからもう一着の服を取り出す。

「……………………」
 目眩が、しそうだった。
 何考えてるんだ、コイツ。

 細身の紺色のジャケットには、正面に黒いボタンが一列に並んでいる。
 肩章の色は焦げ茶。ご丁寧にベルトからサスペンダー、予備の制帽まで揃っていた。

 おい。

 それって。



 …………看守服だろ?









 もう如何にでもなれ、というのがその時の俺の正直な気持ちだった。
 服が散乱した床にぺたりと膝をつき、デューラの成すがままに着せ替え人形となる。
 正面に胡座をかいて座ったデューラの方は、何が楽しいのか俺に看守服を着せ掛けつつ、非常にごきげんで。鼻歌まで歌っている。

(やっぱり…デューラの趣味って…よく分かんねぇ…)

 着せたってこんなサイズの合わない服、俺に似合うわけでもないだろうに…

(それとも、似合ってない処を見て笑い者にする気か?)

 うーん、と考え込む俺に構わず、デューラはいっそ甲斐甲斐しいとすら言える様子でジャケットのボタンを留め、袖をくるくると捲くり、ベルトやサスペンダーを取り付けていく。
 そして仕上げ、というようにぽん、と制帽を頭の上に乗っけられて。漸く着せ替え作業は終了したみたいだった。

「ほら。終わったぞ。こっちを、向け」
 くい、と顎に手を掛けられて顔を上げるように促され、俺はのろのろとデューラを見上げた。

(嫌だなぁ…)

 きっと、デューラは嘲うに決まっている。
 ズボンの裾は捲くってもやっぱり長いし、ウエストはベルトで留めたのにずり落ちかかってるし。
 ジャケットだって、肩が大きすぎて落ちているし、袖も捲くったのに手が半分以上隠れてしまって、指先しか見えていない。
 デューラが着ていればちょっと…ほんのちょっとだけ、格好いいかな?と思う事もあるこの看守服なのに、俺が着ればまるで『大人の服を悪戯して着てしまった子供』状態で情けなかった。
 絶対笑われる。
 暗澹とした思いで、俺は促されるままにデューラの方を向く。


「……くっ……!」


 予想通り。
 目が合った瞬間、デューラは口元を押さえると、ぱっと顔を背けた。
 そのまま、此方を向かず俯いてしまう。
(何だよ!そこまで笑う事、ねぇだろ!)
 予想はしていたけれど、やっぱりいざ実際に笑われると腹が立って仕方ない。
「あの…もう」
 脱いでいいですか、と不貞腐れた声で告げようとした時、俺はちょっとした違和感に気付いた。

 笑ってると思ったデューラだが、肩が一切震えていない。というか、その身体は微動だにしていない。
「………………?」
 さらに。

 訝しく思って、そっとその背けられた顔を見たとき。
 口元を押さえた白手袋の指の狭間から一筋、ツゥっと赤い筋が。

 伝い落ちた。



(…………………………………………吐血?)



「え…?ええぇぇっ!?」
 突然のデューラからの出血に、俺はパニックになる。
(お…俺!何も、してな……!)
 逃げようか、人を呼ぼうかどうしようか、とおたおたとした俺の背に、ドアの開く音と共にあまり聞きたくない声がかかった。

「主任。ここの資料のことで――…主任!?」
「主任!おい、そこのお前!何してる!!」
「あ…違…!俺、何もしてません!」
 座り込んで俯いたままのデューラに気付いた赤毛の看守が、俺の姿を見咎めて怒鳴りつける。その傍らで灰色の髪の看守が目を見開いていた。

「貴様!看守を殴ったのか!?」
「違います!」
 必死に叫ぶが、ジャーヴィーは聞いてくれない。振り上げられる拳を絶望的な思いで見上げる。
 その時。

「止めろ」

 低い声が投げかけられ、ジャーヴィーはぴたりと拳を止めた。
 …いや、止めさせられた。
「しゅ…主任…」

 未だ口元を押さえたままで。だがもう片方の手でデューラが部下の拳を押さえつけている。

「そいつは関係無い」
「し…しかし、主任……」
「いいから止めろ!」
「し…失礼しました!」

 とうとう怒鳴られて、その迫力に押されたようにジャーヴィーは恐縮しつつ、拳を下ろした。
 俺は信じ難い思いで、デューラを見上げる。
 そりゃ確かに、俺は今回全然悪くなかったけれど。それでも。

 あのデューラが、俺を庇うなんて。

 ぼんやりと見上げていると、未だ口元を押さえたままのデューラは
「医務室……行って来る……」
 との言葉を残し、どこかフラついた足取りで(時々壁に手をつきながら)去っていった。


 後には、いまいち事情の分かってない俺と、看守二人だけが残される。


「あー…君…」
 取りあえず、事情の説明をさせようと思ったのだろう。
 思い出したように此方に声を掛けた灰色髪の看守が、俺の方に目を向け――ふと、動きを止める。
 相方のその態度に訝しげに此方を見遣った赤毛も――ぴた。と動きを止めた。

 そして俺をじっと見ながら二人同時に顎に手を当て、『納得。』とでも言いたげに『ああー…』と頷く。
 …っていうか、アンタ達二人だけ何で納得してんだよ。
 俺、さっぱり訳が分かってねぇんだけど。

「あのー…」
 問いかけようとした俺に、逆にシルヴェスの方が尋ねる。
「君…その服は…一体…」
「あ」
「主任か…?」
 ジャーヴィーに苦々しい表情で聞かれ、俺はこくんと頷いた。
「どういう…事情で…?」
「あ…あの…服が駄目になっちゃって…俺、今着る服が無くて…そう言ったら…」
「ああ。そう…か…」
 シルヴェスが目線を彷徨わせつつも頷く。

 どうして『服が駄目になったのか』。…突っ込まれないで良かった。

「でも…一応囚人である君に、看守の服を着させるわけにはいかないんだ」
「あ、分かってます!すぐに、脱ぎます!」
 これ以上こんな格好を人目に晒すのは恥ずかしくて仕方ない。
「ああ、待て。君、服はどうする気だ?」
「あ……」

 そう言えば、最初はそれが問題なんだった。

 思い出して俯いてしまった俺に、珍しくジャーヴィーが口を挟む。
「おい、シルヴェス。…確か看守の古着をどっかひとっところに集めた事なかったか?以前」
「ああ…そう言えば」
「そこ探せば、そのガキに合うサイズの服もあるんじゃねぇか?…『緊急事態』だしな。一枚、出してやれ」
「そうか。…それがいいな」
「え…?い、いいんですか?」
「ああ。まあ、構わないだろう。何時までも君に看守服を着させている訳にもいかないし…それに…」

『…君が(お前が)服を着ていないと著しく『所内の風紀が乱れる』からな…』

 何か二人が同時にぽそぽそ言っていた気もしたが、俺は然程気にしなかった。
 だってこれで服の問題は解決だ!

「じゃあ、こっちだから。ついて来なさい」
「はい!」
 促されて俺は意気揚揚と廊下に出る。
 振って沸いた幸運にはしゃいでいた俺は、だから前を歩く看守二人の会話も――全く、耳には入らなかった。















「シチュエーション的にツボだったんだろうなぁ…」
 呟くジャーヴィーにシルヴェスが疲れたように返す。
「そういう事も、あるんだろうか…」
「まあ…あれはある意味…」


 男の、ロマンだから。


 そう言ってジャーヴィーは背後を振り返った。つられて、シルヴェスも。

 その視線の先には。

 やや傾いた帽子に、折っても折っても引き摺るズボンの裾。
 ベルトで一番きつく留めている筈なのに、それでも余ってしまっているウエスト。
 上着が大きすぎて落ちてしまった肩に、指先がちょっぴりしか出ていない袖口。

 …と。




 まさに『彼氏の服を借りちゃいましたv状態の彼女』な139番が…暢気に歩いていたのだった。






















END











デュラガイテレカが手に入りました記念。
絵柄は、床一面広がった服の山の中で、
鼻歌歌いつつ楽しげにガイズに看守服を着せてやる主任と、
ちょっと困り顔で、でもされるがままのガイズでしたv
きっと色々着せてやろうと試した結果、
いっつも自分が着ている服を着せてやりたくなったんだよ…!主任…!(萌)
このテレカを見た瞬間、鳥呼、夢か己の妄想かと思いましたが。
一応…実在するテレカです。

…ちなみに副題は、『男のロマン』。
アレだけサカってりゃあ、鼻血の一つも出るだろうよ…という話。
(お前、ホントに主任のファンか…!?)























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