思いは届かない





 絶対的片思い




【弁護士】


 今日親友の、エバの生存を知った。
 何も変っていない彼を見て。涙を堪えた。

 泣きたかったのは何も彼の姿が嬉しかったから、という訳じゃない。
 どちらかと言えばそれは、悲しみに近かった。

 哀しい。

 そう、自分は生きている彼を見て哀しかった。

 もう諦められたと思ったのに。
 
 相変わらず真実と正義の追求が全てで。
 求めるものが遠すぎるせいか隣の事には気付きやしない。

 隣の『親友』が何を思っているかも気付きやしない。
 
 でもそれが。それこそが。
 俺の好きになった、エバだったから。

 お前が死んでも、生きても、どちらも同じ。
 俺の思いは、届かない。


 どうして生きているんだ、エバ。
 もう諦められたと思ったのに。






思いは届かない





【囚人】


 今日は3ヶ月振りにルスカに会える日だった。
 僅かながらでも進みつつある調査の報告を聞いて。

 それでも。彼の気はそぞろで。
 いいんだよ、と言ってやりたかった。

 エバの事聞きたいなら聞いていいよ、と言いたかった。

 それでも口を閉ざしたのは。所詮醜い俺のエゴだ。

 せめて回数の限られた逢瀬の間だけでも、俺のことを見て欲しくて。

 でも辛そうなルスカを見て。
 自然口が、彼の話題を出した。

 途端に浮かぶ柔らかで淋しげな笑み。自分で気付いているんだろうか。
 それだけで『好き』だって、すぐに分かるよ。

 『ガイズはいい子だ』

 そう言って差し出されたチョコレート。
 いらないと突き返せたら、どれだけ良かっただろう。

 なのに未練がましい自分は そのチョコレートを抱き締める。
 義理の優しさでも構わない。だってルスカに後何回会える?

 無罪も有罪もどちらも同じ。
 俺の思いは、届かない。


 会いたいよ、ルスカ。だから会いに来ないで。
 別れの刻が、早まってしまう。






思いは届かない





【看守】


 今日はあいつが何処か嬉しそうにしていた。
 三ヶ月ぶりの面会が、あったからだろう。

 幸せそうな様子に苛立ちが募り、乱暴に自室に連れ込んだ。

 床に突き倒せば、諦めたように黙り込んで俯く。

 だがその手に大切そうに抱えた箱を取り上げた時。
 従順な態度が一変した。

 それだけで分かる。この箱が誰から贈られたものか。

 飛び掛って来るのを蹴り飛ばし、包み紙を破り捨てた。
 途端漂う甘い匂いに吐き気がする。

 茶色い固まりを床に放り出し、目の前で踏み躙った。
 足に縋りつく細い身体を、もう一度蹴り飛ばす。

 そのまま衝動に任せて、押し倒した。

 服を剥ぐ。肌を咬む。
 泣き声が、聞こえる。

 篭もる熱。泣き声が喘ぎに変る頃、その顔を見た。

 目は俺を、見ていなかった。
 代わりに踏み躙られたチョコレートを、じっと見ていた。

 こいつが牢に居ても居なくても。どちらも同じ。
 俺の思いは、届かない。


 今だけは俺を見ろ、ガイズ。
 心に棲む人間が決まっているのなら、今だけは。










思いは、届かない。















END












救われない、何処までも続く片思いの連鎖。












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