5.夢のレストラン







 飯を食べている間も、妙にシオンは俺にくっついて離れようとしなかった。
 隣の席に座るのは勿論、食器を取りに行くときも下げに行くときも、片時も傍を離れない。
 シオンと俺の間に誰かが割り込んで来ると、即座に戻ってきて俺の傍につき直す。

 余りベタベタした付き合いを望まないシオンの、珍しい態度を訝しくも思ったけれど――でも、俺にとってそれは不快ではなく、むしろちょっと嬉しいくらいだった。

 だけど夕食後の自由時間になっても、まだシオンは俺の腕を放さない。
 時々辺りを見回して、何かを伺っているみたいだ。
 何時までも仲良く寄り添ってるように見える俺たちを、流石に周囲の奴らが奇異の目で見始めた。
 聞こえよがしに囁くだけならまだしも、聞くに堪えないような野卑なからかいをすれ違いざまに何度も浴びせられ、カッと頬が熱くなる。

「シオン…」
 こうしているのが嫌な訳じゃない。嫌なわけ、無い。だけど好奇の視線に晒されているのがどうにも辛くて、俺はついつい、とシオンのシャツを引っ張った。
「……え?ああ、ガイズ。何?」
 俺をしっかり捕まえている腕とは裏腹に、先ほどからシオンはどこかぼんやりしていて――そう、『心ここにあらず』って状態だ。

「『何』って…。あのさ、さっきから俺を引き摺って――何処に行こうとしてるんだ?」
「『何処に』…?…ああ、うん。大丈夫だよ、ガイズ。あとちょっと待って…」
「待つのはいいけどさぁ…この、手…」
 少しだけ頬を染めて、掴まれっぱなしの手首を見詰める。
 だけど動揺している俺とは裏腹に、シオンは相変わらず『アレをこうして…アレはソレで代用すれば…』などとぶつぶつ言ってる。
 全くシオンの意識の埒外に居るのが悔しくて、自然俺の眉間には皺が一本、二本…と増えてきた。
(何なんだよ、もう…!)

「あのさシオン!もういい加減に…!」
「よし!これなら大丈夫だ!」

 とうとうキレかけた俺が声を荒げるのと、思索に没頭していたシオンがぱっと顔を上げるのとは、殆ど同時だった。
(……う……卑怯……)
 その表情を見た瞬間、吐き出そうとしていた文句の数々がぐっと喉に押し込められる。
 漸く此方に向けられたシオンの笑顔といったら――それくらい、嬉しそうで、幸せそうで、何処か得意げで、キラキラしてて――とにかく、反則モノに綺麗な笑顔だったんだ。

 そんなシオンの笑顔に全面降伏した俺は、振り上げかけた拳を大人しく下ろす。
「『大丈夫』って…何が?」
 問い掛けるとシオンは軽く頬を掻いて、改めて俺の手を握りなおした。
「今からさ…ちょっと面白い事しようと思うんだけど…一緒に来てくれるか?ガイズ」
「え?面白い事!?それって何?何なんだよ、シオン!?」
「今はまだナイショ。…それより、どうする?」
 シオンに真正面から覗き込まれて、俺の返事なんてもう決まったも同然だった。

「行くよ!行くに決まってんじゃん!」





 人の流れとは逆方向に、シオンは俺を引き摺っていく。周囲に人影が無くなってきた頃、俺は漸くシオンの向かっている方向に気付いた。
「シオン…そっち行くと、食堂に戻っちまうぜ?」
 引き止めるように、くいくい、とシオンの手を引っ張る。
「いいんだ、そこが目的地なんだから」
「え?食堂が?」
「ガイズ、ちょっとだけ静かにしてて…」
 しーっと人差し指を唇の前で立て、シオンは再び前に向き直った。そして真っ暗な食堂に一歩足を踏み入れる。
「こんなトコで何するんだよ…」
 囁くがシオンは答えず、ただ一度俺を振り返って安心させるように微笑んだ。
(人が居ない食堂って…入るの初めてだ…)
 普段は食器の触れ合う音や、おしゃべりや、ちょっとした小競り合いの声や、看守の怒鳴り声などのざわめきで満たされている空間だけに、静まり返っていると必要以上に広く、がらんとして見える。
 調理師達も後片付けを終わらせてもう帰ったのだろう。食堂も、その隣に設けられた調理場も文字通り『人っ子一人』居なかった。
 暗闇の中にぼんやりと浮かぶ空っぽの椅子やテーブルが少しだけ不気味で、俺はこっそりシオンに身を寄せる。
「シオン…?」
 そんな俺の僅かな怯えにすら気付かないのか、シオンはどんどん食堂の奥に入り込んでゆき、奥にある無人の調理室の扉に手をかけた。
「…そこ、鍵かかってんじゃないか…?」
 止めようとした矢先、ドアを何やら弄っていたシオンが小さく呟く。
「…良かった…上手く行ったみたいだ…」
「え」

 俺の間抜けな声と重なるように、カチャリ、とドアが開いた。まるで、魔法をかけられたみたいに。

「…と、言うことで、俺の夢のレストランへようこそ」
 呆気に取られて見返す俺を、少し照れながらシオンが中へ促す。
「夢の…レストラン…?」
「そう。俺、一度でいいからこの調理室、使ってみたくってさ」
 鍵が閉まらないようにドアに細工をしといたんだよ。思ったより上手くいった、とシオンは悪戯っぽく笑う。
「使ってって…何」
「『何するんだ?』とか聞くなよ、ガイズ。調理室で料理しなくって、何するんだ?」
「『夢のレストラン』って事は…まさか、シオン!」
「ご明察。…お前、俺が料理得意だって普段どれだけ言っても、いまいち信じてなかったみたいだからなぁ…この機会に、証明してやろうと思ってさ。」
「本気かよ…もしバレたら…!」
 調理室に鍵が厳重に掛けられるのは、勿論ここに包丁だの何だのといった凶器になり得る物をしまっているからだ。だから無断で入った事がバレれば、タダじゃ済まないだろう。
 だけど。
 寄りによってシオンが!俺と違って模範囚と名高いシオンが、こんな大胆な悪戯をやらかそうとしている事が――そして、その相棒に俺を選んでくれた事が、『罰則なんてクソ喰らえだ!』という気分になるくらい、俺を興奮させた。

「ま、バレたら拙いのは俺だって一緒だけどさ。時間内に作って、痕跡も残さないくらい完璧に片付ける自信はあるぜ?安心して見てろよ、ガイズ」
 いつものような心を暖かくするニッコリ笑顔とは違う、何処か好戦的な『悪い』笑み。
 そんないつもと違うシオンも恰好良い…とぼんやりと見惚れてしまっている自分に気付き、俺は慌てて首をブンブン振った。
「…何やってんだ、ガイズ…」
「ん、な、何でも無い!」
「そっか。なら、其処に座って待っててくれ。時間と使える器具の制限があるから、大したもんは出来ないけど…」
 シオンに促されるままに、俺は大人しく床に座り込んだ。

「何、作るんだ?」
 座れ、とは言われたものの、シオンの手元が気になって気になって仕方ない。
 お母さんの手伝いをしたい子供みたいに、俺はくるくると忙しく動き回るシオンに纏わりついた。
「包丁は流石に鍵付き戸棚の中だからな…混ぜて焼くだけで、出来る…」
 ボウルの中に次々とあけられる小麦粉、卵、ミルク。そして、傍らには、鉄製の小さなカップが一つ。
「カップケーキだ!そうだろ、シオン!」
「当たり!プレーンでもいいけど、それだけじゃ淋しいからおまけもつけような?」
「おまけ?」
 何?と首を傾げると、シオンはポケットの中から小袋を取り出した。中には、茶色の小粒がざらざら入っている。
「じゃん。チョコチップ!」
「チョコチップケーキか!うわぁ…美味そう…」
 また、チョコレートだ。今日は何だかチョコレートづいてるなぁ…と頭の隅でぼんやりと思う。
「これをタネにいれまーす。そして焼きまーす!」
「凄い!天才!シオン様ステキー!!」
「そうか?もっと言っていいぜ?ガイズ」
 ぱちぱちと手を叩くと、シオンは胸をそびやかし…それから、そんな自分に照れたみたいにちょっと頬を掻いた。
「…で、後は焼き上がりまで待つだけ、だな…」
 言いながらも、シオンの手元では汚れたボウルが手早く洗われている。
「疑って悪かったよ…本当に料理上手いんだな、シオン」
「…って言っても、たかがカップケーキ一個だろ?しかもまだ食ってないってのに、褒めるの早すぎだって」
「ん、でも…無茶苦茶手早かったし、片づけだってほら、もうぜーんぶ終わってるし、ホント凄いよ!シオンなら、絶対絶対、いつか本当に店持てるようになるって!」
「そうだな…俺も、それは夢だから…」
 ボウルを拭く手を止めて、ふとシオンは遠い目をする。
「小さい店でいいんだ…テーブルもほんのちょっとしかないような小さくて、でも綺麗な店。目が回るほどに忙しくなくったっていい。俺の料理を気に入ってくれる、近所の常連さんがいて…来てくれたお客さんは、まるで自分の家みたいに寛げる、そんな店…」
「…うん。いいな」
 想像してみた。それは、凄く凄く素敵な店だった。
「それで…さ」
 続けるシオンが、一瞬だけ頬を染めてちら、と俺の方を見る。
「俺の隣には…料理が下手で、ちょっと不器用な……が、居て…」
 何が居るのかは聞こえなかったけれど、奥さんか彼女か…そんなところだろう。
(…って、あれ?)
「…ってさ、シオン。店やるなら、『不器用』な相手も『料理下手』な相手も、致命的に駄目なんじゃねぇのか?そんなパートナーじゃ、足手まといになるじゃん。…料理得意な奴選んだ方がいいと思うけど…」
「でも…きっと何するにもすっげぇ一生懸命なんだぜ?包丁使えば指切るだろうし、鍋を使えば火傷するだろうし…あぁ…きっと、タマネギ切るのも苦手なんだろうなぁ…あのでっかい目をウサギみたいに真っ赤にして、ポロポロ涙流しながら、『痛ぇよ、シオン…』とか縋ってきたりして…うわ、駄目だって、今は仕事中だから…でも、お前がそう言うなら…俺…!」
「…シオン?…おーい、シオン?もーしもーし?」
 一瞬で俺の知らない世界に旅立ってしまったシオンの眼前で、ぱたぱたと手を振る。
「あ…!ご、ごめんな、ガイズ。と、とにかく俺はそういう人と、そういう店を作るのが夢って事で…」
 …何だか滅茶苦茶誤魔化されたような気がしたけど、気のせいだろうか。
 問い詰めようとした矢先、タイミングがいいのか悪いのか…ふわりとバニラの香りの湯気を立てて、カップケーキが焼きあがった。
「ほら。出来上がり」
 甘い匂いのするそれを、シオンが慎重に差し出す。
 狐色に焼き色のついた表面と、熱さで蕩けたチョコレートチップ。焼きたてのケーキに、すっかり魅了された俺はシオンを問い詰めようとしていたことすら忘れてしまった。
 ぐぐぐ、と腹が鳴る。『火傷するなよ』、とシオンが注意するのももどかしくカップを受け取った。
「じゃ、食ってくれるか?」
「うん!ありがとな、シオン!」
 笑顔で礼を言うと、ふとシオンが不自然に俺から目を逸らした。そして俺と眼を合わせないままに、もごもごと口を開く。
「…あのさ、ガイズ」
「何?」
「もしこのケーキ食って、お前が美味いって思ってくれたら…俺、お前に…」
「俺に?何?」

「…一生、ケーキ作ってやっていいぜ?」
「…え」

 一生?一生って…どういう事だろう。それじゃまるで…
(プロポーズみたい…じゃないか…)
 考えた瞬間、全身が沸騰したみたいに熱くなった。
(馬鹿馬鹿馬鹿!何考えてんだよ、俺!シオンが俺に…なんて…、そんなワケねぇだろ!うっわー、恥ずかしい…なーに思い上がってんだろ、俺…。こんなこと絶対、シオンには言えねぇよ…!)
 赤くなる頬を必死に手で冷ましつつ隣のシオンをちら、と見ると…シオンも、こちらを横目で見ている。視線がばっちり交錯してしまい、二人同時にぱっと目を逸らす。

 調理室に微妙な沈黙が、落ちた。

「…ガイズ」
「えっ!な、何!?」
 シオンに声を掛けられるだけで、過剰反応した身体が跳ね上がってしまう。
「えと…それ、あったかいウチに食ってくれたら嬉しいな、と…」
「あ、そ、そうだよな!」
 びくびくしている自分を誤魔化すように、ははは、と意味もなく笑いながら手元のケーキに向き直る。極力何でも無い風を装うが、それでもシオンがじっとこっちを見ているのが分かって――どうにも、落ちつかない。
「シオン…」
「?」
「あんまり…見るなよ…」
「駄目…か…?」
「恥ずかしい…だろ」
 言いながらシオンから顔を背けようとすると、引き止めるようにそっと肩を抑えられた。
「ガイズ…」
 頬に手をそえられ、やや強引に振り向かされる。とく、心臓が跳ねた。その刹那――


「なぁぁにやってんだ、貴様らわぁぁっ!!」

 必殺!看守キーック!!

 雄叫びと共にドアが蹴り飛ばされ、一陣の赤い風が舞い込んだ。


「…っは、貴様ら…何やって…!」
 駆け込んできたジャーヴィーは、どれだけ必死に走ってきたというのか、真っ青な顔でゼイゼイ息をついている。
 看守に見つかった…!という焦りよりも、『オイオイ…お前…大丈夫か?』という思いに支配されて、俺とシオンは逃げる事も出来ず、ジャーヴィーが呼吸困難から立ち直るまでを呆然とと見守ってしまった。
 汗だくの顔面蒼白でドアに縋り付いていたジャーヴィーは、だけど俺の手元のケーキ(未だ手付かず)に目をやって、何故か安心した様にはぁぁっと息をつく。

「ああぁ〜良かった…まだ『未遂』だ…!俺、間に合ったよ母ちゃん…!」
「…はい?」
「未遂…?」
 同時に聞き返す俺たちに、漸く我に返ったのかジャーヴィーは一度気を取り直すように咳払いして、居住まいを正した。…今更のような気もしたけど。
「そ、それはともかく…!貴様ら、勝手にこんな所に入り込むとはどういう了見だ!?」
 改めて怒鳴られて、俺は漸く事の重大さを理解し、蒼褪める。
「あ…それは…」
「勝手にこんなもん作りやがって…!寄越せ!」
「な…!何すんだよ!」
 乱暴に、俺の手からシオンのケーキが引ったくられた。
「返せよ!返せってば!」
「偉そうに言える立場か、貴様!」
 伸ばした手を振り払われ、バン、と壁に背中を打ち付ける。
「い…っつ!」
「ガイズ!!」
 蹲った俺に、シオンが駆け寄り、抱き起こす。
「畜生…!返せ…!」
「ガイズ!…もう、いいから…!」
「引き下がれるかよ!だって、シオン…!」
 泣きそうな声で振り返った俺を、シオンの腕がきつく抱き締めた。
「いいから…!お前が望むならあんなケーキ、いつだって作ってやるから…!だからじっとしててくれよ…!お前に怪我でもされたら…俺…!」
 シオンの言わんとすることは分かる。それに無断で調理室を使用したのだから、看守が俺たちを責めるのにだって正当性がある。だけど、黙ってなんかいられなかった。
「返せよぉっ!」
「いいかげんにしろ!懲罰房に入れられたいか、139番!」
「止めて下さい!」
 シオンが、初めてジャーヴィーに怒鳴り返した。然程大きくは無いがよく通る声に、打たれたように俺もジャーヴィーも動きを止める。
「止めて下さい…俺が、悪いんです。俺が誘ったから…!ガイズは俺に巻き込まれただけです!罰を受けるなら、俺が…!」
「ふざけんなよ、シオン!…なぁ、コイツの言うことなんか、ウソだからな!俺も乗り気で、自分から此処に来たんだ!だから俺にだって責任が…!」
「何言ってんだよ、元はと言えば俺が…!」
 間に立ったジャーヴィーをそっちのけで、二人ぎゃんぎゃんと言い争う。
 困惑した様に何度も俺たちを見比べていたジャーヴィーだったが、俺たちの言い争いが掴みあいにまで発展しかかると慌てて引き離しにかかった。

「もういい!!139番!お前、確か今日はシャワーの日だな!なら、さっさと行って来い!」
「え…?行っていいの…?」
 存外あっさりと許されて、俺はシオンと思わず顔を見合わせる。
「…じゃあ、失礼しま…」
 そして二人、そっと調理室を後にしようとした時、ジャーヴィーが声を荒げた。
「おい、お前!お前は此処に残れ!」
「俺…ですか…」
 シオンが、のろのろと振り返る。
(まさか…シオンだけ懲罰房…!?)
 悲壮な顔でぎゅっとシオンの手を握る。だけどジャーヴィーの告げた『罰』は、俺の予想外のものだった。
「そうだ。お前は、責任とって…此処の掃除をしろ!」
「…え?あ、はい。分かりました…」
 何が来るかと思いきや。拍子抜けする『罰』に、シオンが間の抜けた声で頷く。
「でも、あの…片付けはもう出来てるんですが…」
 おずおずと口にしたシオンに、ジャーヴィーはふん、と鼻を鳴らして調理室を指さした。
「汚した箇所の後片付けをするなんて、当然のことだろう!お前は今夜12時までずっと、この調理室全体の掃除だ!点呼担当の看守には、俺から言っておく!」
「12時まで…!?そんな…!」
 言われた瞬間、今まで従順に従っていたシオンが初めて焦ったような表情を見せた。
「…何だ?何か問題でも、あるのか?」
「い…いえ…」
 当惑したようにシオンは俯く。そして、泣きそうな顔で俺に眼を向けた。

「…14日に…間に合わない…」







********


 ジャーヴィーに引っ立てられていくガイズの後姿を、溜息をつきながらシオンは見送った。
 まんまと逃がしてしまった14日のチャンス。あれだけ必死に立てた計画だったのに。

 泣きそうな気持ちになったが、時々心配そうな面持ちでガイズが振り返るから、それも出来ない。
 代わりに笑顔を貼り付けて、安心させるように一度ひらひら手を振ってやった。
 するとガイズもジャーヴィーの眼を盗んで、必死に手を振り返してしてくる。
 …それだけで少し気分が上昇したのだから、自分も安上がりだとシオンは苦笑した。

 それにしても、とシオンは思う。
 どうしてバレてしまったのだろう。この時間此処には、看守の巡回は無い筈だ。
 なのに、何故ジャーヴィーが此処に。…まるで、シオンやガイズを追っていたようではないか。

 …と、そこまで考えてふとシオンは思い至った。
 ジャーヴィーの直属の上司が、誰かを。

「あっの…職権濫用野郎がぁぁぁぁっ!!」

 脳裏で嘲う憎らしい金髪の面影に拳を震わせて、シオンは叫ぶ。
 普段『この刑務所一の模範囚』と名高いシオンの、虚飾をかなぐり捨てた叫びは…幸か不幸か、誰にも、聞き咎められる事は無かった。


********





















SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送