さてさて、アナタが落としたのは?







 金の斧銀の斧






 昔々あるところに一人の主任が居ました。
 主任は今日もお気に入りのガイズを連れて森を散歩していましたが、何かの弾みで可愛いガイズを池の中へ落としてしまいました(落とすなよ)。

「おい、ガイズ?」

 とぷん、と音を立てて池に落ちたガイズを恐る恐る主任は呼んでみますが、一向に相手から返事が返りません。
「ガイズ!?」
 流石に焦った主任は池の淵に駆け寄り、暗い水の中を覗き込みました。
 が、水草の生い茂った池の中をどれだけ探してもガイズの姿は見つかりません。

「ガイズ!?貴様ふざけてるなよ!?出てこないと…どうなるか分かってるだろうな!?」
 怒ってみても脅してみても、池の中に消えてしまったガイズは戻って来ません。


「…………」
 ひゅう、と風が吹きすぎました。ガイズの居ない森の中は、何処までも何処までも静かです。
「ガイ、ズ……?」

 ぽつ、と主任が呟いた時、不意に池の水面が光を放ちました。
「何!?」

 光り輝く池の中から現れたのは、これまた光り輝くばかりに美しい銀髪の女神です。


「どうやら、お困りのようですね」
「…何やってんだ、ヴァルイーダ…」
「今は『泉の女神』ですv」
「男だろ、お前…」
 銀髪の男…女神に呆れたように主任が突っ込みを入れますが、女神は爽やかな微笑でその呟きをさっくりと無視します。

「ところでデューラ、随分と悲痛な顔してますがどうしたんです?まるで母ちゃんに先立たれたジャーヴィー氏のようですよ?」
「そこまで悲痛な顔してるか、俺は…!」
 余りの言われ様に思わず主任は自分の頬を擦ります。
 と、そこで漸く主任は自分の大事な大事な『落し物』のことを思い出しました。

「実はさっきこの池の中に『落し物』をしたんだが…お前、心当たりは無いか?」
「ええ。ありますよ。ちょっと待ってて下さい」
 あっさりと答えると、女神はまたゆっくりと池の中に沈んでいきました。
 やや拍子抜けしたものの、『落し物』の無事に主任はほっと胸を撫で下ろし…たものの、同時にそんな自分にイライラしたのか、わしわしと髪を掻き毟ります。忙しい人です。



 それから3分ほど経過し、漸く池の水面に女神が再び現れました。



「遅いぞ、ヴァルイー……」
 言いかけた主任は、ぎょっとしたように目を見開きました。
 現れた女神は、そのほっそい腕に3人もの男を抱えていたからです。


「最近の『落し物』からなんですけどー。デューラ、アナタが落としたのはこの短気で荒っぽくて『思い立ったら即行動』のアグレッシブな『非情の冷人』ですか?」
 口に猿轡を噛まされ、尚且つ後ろ手にぐるぐる巻きに縛られた銀髪の少年は、女神の指差す先でもがー、もがーともがいていました。

「それとも、この押し引きをわきまえた、勝負事にめっぽう強い『頼りになる兄貴的存在』の新聞記者殿ですか?」
 二番目の男は縛られてこそ居なかったものの、諦めきった顔で苦い微笑を浮かべていました。嫌なら断ればいいものを、何処までも付き合いのいい人です。

「それとも、この『メガネ』でしょうか?」
 3番目のメガネ…否、男は抵抗する気力も失せたのか、縛られたままでぐったりと俯いていました。7・3の髪も乱れ、メガネの端に罅が入ってるのは麗しの女神との乱闘の名残でしょうか。

「はい、どれですか?デューラ」
 にっこりと見るものを蕩かす微笑で尋ねる女神に、主任はゆっくりと口を開きました。


「…俺が落としたのは…『ガイズ』なんだが…」


 その答えに女神ははっとしたように目を見張り、次いでゆっくりと微笑みました。
「そうですか。…貴方は正直者ですね、デューラ」
 独り言のように呟くと、白い指先をそっと主任の方へ差し向けます。

「そんな正直者の貴方には…3人とも差し上げましょう」

 どうぞお幸せに…。その言葉と共に女神は池の中へと消えていきました。





 後に。
 主任と。
 縛られっぱなしでまだもがー、もがーとうめいている『非情の冷人』と。
 乾いた笑いを浮かべる『頼りになる兄貴』と。
 意識飛ばしっぱなしの『メガネ』を残して。





「…って、俺が落としたのはガイズだって言ってんだろうがぁぁっ!コラ、ヴァルイーダ!ガイズ返しやがれーっ!!」












 …めでたしめでたし。




「めでたくねぇ!!」











END








童話パロです。実は続きがあったり。(コチラから
…それにしても、めでたくねぇ…(涙)







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